本稿では、アニメ『リコリス・リコイル』の主人公・錦木千束(上記赤い服の娘)が愛用するオートマチック拳銃について解説する。
ちなみに広義の「千束の(使った)銃」としては、グロック社の「グロック21拳銃」とケルテック社の「KSG散弾銃」なども該当するが、本稿では『リコリコ』オリジナル拳銃を取り扱う。
概要
デザインは寺岡賢司が担当。現実の様々な拳銃パーツの意匠を取り入れた架空銃である。特に名前は設定されておらず、小説版でも『千束の銃』表記。アニメ原案のアサウラはそのまどろっこしい表記を見て「何でもいいから愛称付けておくんだった」と後悔した模様。
主な原案となったのは、日本のエアガンメーカー・東京マルイから発売されているエアソフトガン「ストライクウォーリア」と、更にそのベースになった「.45 コンバットマスター」と考えられている。同作の銃器・アクション監修の沢田犬ニが「近い銃」として作画資料にしていた銃の中にもストライクウォーリアが含まれていたり、後述の東京マルイコラボモデルがコンバットマスターをベースにしているあたり、明言こそされていないがほぼ間違いないだろう。
ちなみにコンバットマスターも東京マルイを始めとする様々なメーカーがエアソフトガン化している。舞台『リコリス・リコイル』では東京マルイから貸し出されたコンバットマスターとストライクウォーリアがプロップガン(小道具銃)として使用された。
原案と思われる銃について
デトニクス .45コンバットマスター
1977年にアメリカ・デトニクス社が開発したサブコンパクト拳銃。コルト社の「M1911(コルト・ガバメント)」拳銃を大幅に小型化した「コンシールドキャリー(隠匿携帯)」モデルである。
スライド長は5.1インチ(約13cm)のフルサイズM1911に対して3.5インチ(約9cm)まで短縮され、マガジン装弾数を1発犠牲にグリップも切り詰められている。このような超小型M1911がガンスミス(銃職人)の個別作例しか存在しなかった時代に、数々の工夫を盛り込んで実用性を保ったまま量産に成功したコンバットマスターは、その後の銃器開発に大きな影響を与えた。
後発メーカー製の超小型M1911が多数登場し、デトニクス社が倒産して久しい現代においても、特に日本のガンマニア間では、単に「デトニクス」と言えばこのコンバットマスターを指すことが殆どである。
他の創作作品では『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』においてレンが使用する「ヴォーパルバニー」の原案になっていることが有名。
東京マルイ ストライクウォーリア
東京マルイのオリジナルモデル「ウォーリアシリーズ」の第4弾。同シリーズはアメリカ・キンバー社のカスタムM1911「ウォーリア」をイメージした架空銃だが、ストライクウォーリアは既存の銃を3種類ほど混ぜ合わせた、ほぼ完全な架空銃である。
米海兵隊仕様のカスタムM1911「MEUピストル」のフルサイズフレームに、コンバットマスターの3.5インチスライドを搭載。そこに実在のガンスミス、アラン・ジッタが考案した「ストライクガン」を参考にしたストライクフェイス・コンペンセイターを装着している。
オリジナルのストライクガンはKSC社からエアソフトガン化されているが、入手難易度の差から「ストライクガン」と言えばこのマルイウォーリアを連想するガンマニアが殆ど。『リコリコ』放送開始後には真っ先に「千束の銃」のベース銃として特定され、あっという間に店頭在庫が空になった逸話もある。
「千束の銃」カスタムポイント
最大の特徴は、フレームに取り付けられた「ストライクフェイス一体型コンペンセイター」。
5つのニードルが突き出たストライクフェイスは、相手をつついて攻撃するための物ではなく、近接戦において銃口とスライドを保護するための物(第5話で敵の土手っ腹突いて接射したり、小説版でドアミラーぶっ壊してたきなに引かれてるけど)。オートマチック拳銃はスライドを押し込まれると(=相手の体が押し当てられると)ディスコネクターが動き、引き金を引いても撃鉄が落ちずに発砲不能になる。これを防ぐため、スライドの前に不動式のスパイクを配置し、スライドが前から押されても動かない&スライドを前から掴まれないようにしているのである。
このコンペンセイターは銃身先端(銃口)部と結合、もしくはほとんど接触しており、スパイクの上面に3つ、両側面に1つずつ開けられた穴(ポート)から発射ガスを逃がすことで、発射時の上方向への反動を抑制する。コンペンセイター自体の重量も相まって、反動は通常のコンバットマスターより抑えられていると推察できる。一方で発射ガスが銃口上部に逃げる構造上、変な構え方をすると火傷の元になる。
スライドはコンバットマスターのそれに近いショートタイプ。側面部には一切の刻印が無い(特注したのか、既製品を研磨したのかは不明)。フロント/リアサイトはオリジナルデザインに換装。リアサイトの切り欠きは独特の「凸」形状になっており、C.A.R.システムで構えた際に目標の姿を確認しやすくなっている。
設定画によると口径は.45口径。オリジナルM1911ともコンバットマスターとも異なる、先端部が太い独特の段差形状銃身が用いられている。これはプロップガンを作成する際に「本来は.45口径弾のM1911だが、諸事情で9mm弾を使いたい」場合、9mm弾用銃身を.45口径スライドに無理やりはめ込むために行われるカスタムである(シルベスター・スタローン主演『コブラ』が有名)。実用面では特に意味のないカスタムだが、この辺りは架空銃ならではのデザイン上のアクセントか。
銃身の色は作画ミスが多いシーンによってまちまち。黒染めかシルバー。
グリップパネルは下半分が太いオリジナル品を使用。.45口径弾の反動を制御しやすくするため、わざと太くして安定性を高めたカスタムなのかもしれない。握り手の親指部分には指置き用の段差が設けられ、安定して保持できる。下部はマガジン挿入部にはみ出しており、スムーズなマガジン装填を誘導するためのマグウェルとしても機能している。
安全装置レバーはコンバットマスター同様の物を左側面のみに搭載。グリップセイフティは搭載されていない。撃鉄もコンバットマスター特有の、短縮化されたスナッグプルーフ(引っ掛かり防止)デザイン。
マガジン装弾数は6発。作中の千束は薬室に初弾を送り込んで7発装填にしておらず、基本的に6発撃ち切ったらその都度マガジンを交換している。マガジン底部には小指をかけるためのフィンガーレストパーツが装着されている。
装填されているのは非殺傷ゴム弾。着弾すると赤い粉塵をまき散らして戦意を減衰させる効果がある。
アラン機関から人工心臓の手術成功のお祝いとして贈られた品であり、外出の際はリコリス鞄の中に入れている。
無粋なツッコミ
現実的にみると、女の子が使うにはいろいろと辛いのではなかろうか……と思える銃。そもそも痛快アクション作品にそんなツッコミを入れること自体無粋ではあるが。
千束が得意とするC.A.R.スタイルでは、閉所戦闘時に銃を体の近くに寄せて構える姿勢が取られることがある。スライドが短い千束の銃では銃口が顔により近づくため、銃口上部に抜ける高熱ガスもより顔に近い位置で噴き出す。劇中でも千束は度々この姿勢で発砲しているが、その際には顔面を襲う熱気に頑張って耐えているはずである[1]。
グリップも(後述の東京マルイモデルであれば)成人男性が握る分には意外とすっきり握れるのだが、流石に未成年の少女にはちょっと大きいかもしれない。作中ではもっと薄く作られているのだろう。
何より、M1911系のピストルはスライドリリースレバー位置の都合、後ろに太いグリップだと成人男性でも指が届かなくなり、普通に握ったままだと片手でスライドを戻せなくなる。そして千束の銃ではリリースレバーは特にカスタムされていない。
「千束が軽々とこの銃を扱う姿」それ自体が、彼女がまさしく凄腕のリコリスであることと、指が長いことの証左と言えるだろう。
公式コラボ遊戯銃
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水鉄砲や非可動モデルガンとしては再現モデルが度々発売されてきたが、2024年3月14日、東京マルイから公式コラボ商品として18歳以上対象のガスブロ―バック・エアソフトガンが発売された。お値段は¥29800(税別)。※当然ながら18歳未満は購入不可
一部新規パーツを用いてはいるが、大部分はコンバットマスターと「ヴォーパルバニー」や「AM.45」(共にガンゲイル・オンラインコラボ商品)のパーツを流用している。このため銃身は通常のコンバットマスターと同じシルバーコーンバレルだが、そこを除けば劇中の特徴的な形状はほぼ忠実に再現されている(黒い銃身が欲しい場合、ヴォーパルバニーかAM.45からアウターバレルを強奪すると手っ取り早く色変え出来る)。
レスト付き専用マガジンの装弾数は6mmBB弾22発。また、見た目は悪くなるが、既に発売されているフルサイズのコルト・ガバメント系マガジン(装弾数26~40発)も装填可能[2]。
スパイクはプラスチック製だが、先端はしっかり尖っている。一部のサバイバルゲーム場では接触事故防止の観点から使用禁止されているため、ゲームに持っていく際には事前確認を忘れずに。
そしてエアソフトガンである以上は当然のことだが、コスプレイベントなどに持ち込む際には絶対に裸のまま持ち運ばないようにして、銃口を人に向けないこと(やらかすと最悪通報されます)。
あと、迂闊に千束の真似をしてC.A.R.システムで構えて発砲すると、後退したスライドで顔面を強打する恐れがあるので注意しよう。
パッケージは外装を外すと、アニメ第2話に登場したアタッシェケース風の化粧箱が姿を現す。玩具としてのエアソフトガンにこだわる東京マルイらしく、中身もそれっぽく仕上げられている。
AM.45と同じく、この製品は「完全限定品」ではなく「期間生産品」であり、限定的ながら再生産が行われる(第2次生産は決定済み)。
18歳以上用という性質上、流通経路は既存のミリタリー系ショップやバラエティショップが中心で、一般のアニメショップなどで流通することは少ない。このため発売時にはエアソフトガンに疎いアニメファンが「どこで買えばいいの!?」と戸惑う一方、ミリタリーショップでは通常を遥かに超える量の予約が殺到し、早々に予約ショートする店舗が続出した。
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予約を逃したガンマニアの中には「千束の銃買いました」と言いながら、東京マルイ製KSGの写真を投稿する人もいたとかいなかったとか。
関連動画
関連静画
関連リンク
- 「リコリス・リコイル」とのコラボレーション・モデル - 東京マルイ
- 『リコリコ』“千束の銃”が東京マルイから本日(3/14)発売。ストライクフェイスを忠実に再現、2回目の生産品も決定 - ファミ通.com
関連項目
- リコリス・リコイル
- 銃の一覧(拳銃)
- 架空の武器・防具の一覧
- ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン - 先述の通り東京マルイからヴォーパルバニーとAM.45が発売。奇しくも同じコンバットマスターベースである。
脚注
- *そもそも弾からして架空なので、現実の.45口径弾より発射ガスが少ない……のかもしれない。また、アニメでは作画や画角の関係で、現実の姿勢よりも銃と顔が近くなっている。
- *コンバットマスター系マガジンも入れづらいが装填可能。ヴォーパルバニー&AM45マガジンはマグバンパーが干渉して装填できない。
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