民尊官卑とは、政治・経済の分野で使われる言葉で、民間を尊んで官僚を卑下する様子を示す言葉である。
関連する言葉は官尊民卑(かんそんみんぴ)である。
概要
定義と行動形式
民尊官卑とは、民間の企業・商人を尊び、官僚・政府・特殊法人・公社を卑下することである。
政府やその関連団体に対して「非効率」「硬直」「肥大化」「腐敗」「働いていない」という批判を浴びせ、「税金の無駄遣い」「税金泥棒」という侮辱をして、予算と人員を削る緊縮財政にして小さな政府にしてしまうという懲罰をする。これらが、民尊官卑の具体的行動となる。
官僚の支援を当てにする民間人を批判する
また、官僚の支援を当てにする民間人に対して「自立心がない」等と批判することも、民尊官卑の一形態と言える。官僚だけでなく、その周辺に群がる民間人から撲滅していく、という発想である。
批判されるところ
政府やその関連団体というのは国家予算を背景にして仕事をすることができ、貸借対照表(バランスシート)の純資産や損益計算書の利益を追求せずに事業を推し進めることができる。長期的視野を保ちつつ、国民に福利をもたらすという憲法前文に明記された義務を果たすことができる。また、不景気になったら目先の利益を重視して我先に逃げ出していく民間企業と違い、その土地に最後まで残って殖産興業に打ち込むことができる。
こうした長所は、民間企業には存在せず、政府とその関連団体のみが持っている。
ゆえに、むやみやたらと政府やその関連団体をバッシングすることは、望ましいものとは言えない。
官僚(政府)と民間企業が、お互いの短所を補いつつ国家建設をするというのが好ましいといえる。こういうことを、官民協力、官民協働、官民一体、官と民が力を合わせる、という。
また、民尊官卑は職業差別に変化する危険がある思想なので、あまりよい考え方ではない。
民尊官卑と親和性の高い思想
市場原理主義(新自由主義)という経済思想がある。政府の経済に対する介入を最小限にして小さな政府にして民間の活力を高める、というものであり、民尊官卑そのものといえる。
グローバリズムという経済思想がある。国家・政府の存在を否定したり軽視したりして、民間企業の国際的な活躍を促進しようというものである。
リバタリアニズムという政治思想がある。個人の自由を最大限に追求する思想で、政府の活動に対して批判的なところが特徴である。
無政府主義(アナーキズム)という思想がある。これは、政府など存在すべきではないという思想で、民尊官卑と極めて高い親和性がある。
民尊官卑の原因となる心情
民尊官卑の原因となる心情には様々なものがあると考えられる。この項で、考えられる要因を列挙していく。
自信過剰
「人は誰にも世話にならず自立することができるし、努力すればそれが十分に可能である。人の世話になることは恥ずかしいことであり、誰かの支援を受けることは卑しいことである」という心情を強く持つ人がいる。「自立心が強い」と肯定的に表現することもできるし、「プライドが高い」と批判的に表現することもできるだろう。
そういう心情が強くなっていくと、「官僚の世話になるのは、人として恥ずかしいことだ」というような考えに傾き、民尊官卑の思想に染まっていく。
現実的には、すべての人が警察制度や医療制度によって守られているのであり、人の世話になりながら生きている。そういう現実を無視して、自信過剰な心情を持つと、次第に民尊官卑の思想に傾いていく。
徴税権力に対する憤怒
人は、税金を政府に対して支払わねばならない。
納税の義務を一方的に課せられ、貴重な稼ぎを政府に奪われていくことで、政府に対する怒りがこみ上げてくる。その怒りが、次第に「官僚は税金泥棒だ、官僚は憎い」という心理に変化していき、民尊官卑の思想に変化していく。
公的職場の安定性に対する嫉妬
民間企業は不安定であり、いつ倒産するかわからない。その一方で、公的職場は政府の支援を受けているので倒産の危機にさらされていない。
民間企業に所属する人が、公的職場の安定性に対して嫉妬する。その嫉妬心が、官僚・公務員に対する軽蔑心になり、民尊官卑の思想へ変化していく。
公的職場による労働者賃金の上昇が気に入らない
民間企業の経営者には色んな人がいるが、その一部は、労働者の賃金を減らすことで利益を捻出しようと考えるタイプの人がいる。つまり、人件費の削減を志向するタイプの経営者である。
そういう人にとっては、どれだけ不況になっても賃金レベルを一定に保つことができる公的職場というものが、とても邪魔に感じられる。公的職場と民間企業は労働市場で労働者の奪い合いをしているので、公的職場が存在して公務員に安定した給与を支払っている場合、民間企業もそれに対抗して給与を払わねばならない。
「公的職場が存在しているせいで労働者の賃金が下がらず経営が苦しくなる」という考えにより、公的職場への憎悪心がつのり、民尊官卑へ傾倒していく。
敗戦ショック
大日本帝国は、1945年9月2日に連合国へ降伏し、敗戦した。
この敗戦の原因は様々なものがあるが、そのうちの一つが軍部である。戦前の軍部は官僚主義の失敗例のような存在だった。
1945年の敗戦を気に病むタイプの人の一部は、「日本が敗れたのは軍部の官僚主義のせいだ」と考え、「官僚=戦前の軍部=悪」と考え、官僚・公務員の存在をとにかく否定する傾向がある。
反共
反共(反・共産主義)を主張する人の一部には、民尊官卑になびく人がいる。
共産主義というのは、ソ連を筆頭に、強烈な官僚主義国家ばかりである。政府が超巨大な独占企業に変身して国内のすべての企業を併合し、官僚が国内のすべての業界を独占的に支配する。
共産主義に対する恐怖と嫌悪感を持つ人の一部は、「官僚=共産主義=悪」と考えるようになり、官僚・公務員の存在をとにかく否定するようになる。
民尊官卑を主張する人たち
一般読者向け書籍を多数販売したり、Twitterアカウントを開設しつつ多くのフォロワーを得たりして、大衆への思想的影響力を強く持っている人たちがいる。そういう人たちのなかで、民尊官卑の主張をする人がいる。
そうした人物を一覧にすると、次のようになる。
※生年月日順に並べた。2020年8月16日の時点でニコニコ大百科の記事がある人物は太字にした。政治家はあまりに数が多いので除外し、「政治問題を積極的に論ずる民間人」のみとした。
関連項目
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