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チロシン(Tyrosine)とは、芳香族アミノ酸である。4-ヒドロキシフェニルアラニン。
概要
チロシンは、4-ヒドロキシフェニル基をもつ芳香族アミノ酸である。タンパク質を構成するアミノ酸で、極性・無電荷の側鎖をもつ。ドーパミンやアドレナリンなどの前駆体となる。ヒドロキシ基(-OH)の位置によって3種類の異性体があるが、フェニルアラニン-4-モノオキシゲナーゼによってフェニルアラニンから合成されるのはp-チロシンのみである。
チーズのカゼインから発見されたため、ギリシャ語でチーズを意味する“Τυρί”より命名された。3文字略号は“Tyr”だが、1文字略号はトレオニンとの重複を避けるため“Y”が割り当てられた。
発酵の進んだ納豆は、その表面にチロシンの白い結晶が析出してくる。じゃりじゃりとして風味が多少損なわれる。タケノコもしばしばチロシンが析出している。いずれも、食べても害はない。
チロシンはサプリメントとしても販売されている。ドーパミンなどの神経伝達物質の前駆体であるため、脳神経の活性化やストレス緩和などを期待して配合されるようだ。また、チロシンは髪や皮膚の色素であるメラニンの合成にも使用される。
食物の発酵や腐敗によるチロシンの脱炭酸により、チラミンが生じる。チラミンはワインやチーズ、チョコレートなどに含まれており、血圧上昇の一因となる。チラミンは片頭痛の誘発因子として知られているが、『慢性頭痛の診療ガイドライン2013』によれば、むやみに食べ物を制限することはかえって患者のQOLを低下させる場合もあるため、アルコール以外の食品については摂取制限までは推奨されていない。
合成
植物や微生物は、チロシンなどの芳香族アミノ酸の合成経路をもつ。解糖系のホスホエノールピルビン酸(PEP)とペントースリン酸経路のエリトロース-4-リン酸(E4P)の縮合から始まるシキミ酸経路によって合成される。
動物は、フェニルアラニンの4-ヒドロキシ化によってチロシンを合成する。フェニルアラニン-4-モノオキシゲナーゼと補酵素のテトラヒドロビオプテリン(BH4)が作用して、チロシンとジヒドロビオプテリン(BH2)を得る。
フェニルアラニンから合成できるためチロシンは必須アミノ酸ではないが、フェニルアラニンは必須アミノ酸である。ただし、フェニルアラニン-4-モノオキシゲナーゼの先天的欠損などでは、フェニルアラニンからチロシンへの代謝がうまく進まず、フェニルケトン尿症をきたす。
代謝
チロシンが代謝されると、代謝中間体としてフマル酸とアセト酢酸を生成する。フマル酸は糖新生の前駆体であり、アセト酢酸はケトン体であるため、チロシンは糖原生アミノ酸かつケト原性アミノ酸である。
ホモゲンチジン酸を4-マレイルアセト酢酸へと変換するホモゲンチジン酸-1,2-ジオキシゲナーゼの先天的欠損は、アルカプトン尿症の原因である。ホモゲンチジン酸を多く含む尿が空気に触れ、酸化されて黒変するのはこの疾患の特徴である。症状としては関節炎などがある。
フマリルアセトアセターゼや4-ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼの先天的欠損などは、高チロシン血症の原因である。高チロシン血症I型では、肝機能障害、有痛性の末梢神経障害、くる病などをきたす。難病法の対象疾患(指定難病)となっている。
神経伝達物質やホルモンの合成
チロシンは、ドーパミンやアドレナリンなどのカテコールアミンの前駆体である。カテコールアミンは、神経伝達物質やホルモンとして作用する生理活性アミンである。チロシンがヒドロキシ化されドーパとなり、脱炭酸してドーパミンとなり、さらにヒドロキシ化されてノルアドレナリンとなり、N-メチル化されてアドレナリンとなる。
ドーパミンは脳の神経伝達物質、ノルアドレナリンは交感神経系の神経伝達物質、アドレナリンは副腎髄質から分泌されるホルモンとして知られる。詳しい作用などはそれぞれの記事を参照。なお、ドーパ(レボドパ)は血液脳関門を通過しドーパミンの合成に使用されるため、ドーパミンの作用不足に起因するパーキンソン病の諸症状の改善などに医薬品として利用される。
チロシンは、甲状腺ホルモンのトリヨードチロニン(T3)およびチロキシン(T4)の前駆体でもある。ただし、チロシンに遊離ヨウ素が直接結合するわけではなく、チログロブリンというタンパク質のチロシン残基にヨウ素が結合してモノヨードチロシン(MIT)やジヨードチロシン(DIT)となり、それらが縮合することでT3やT4となる。チログロブリン分子内で合成されたT3およびT4は、濾胞腔内に貯蔵され、下垂体前葉より分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)により血中に放出される。T3のほうが生理活性は強く、T4のほうが量は多い。体温上昇、心拍数増加、血糖値上昇などの作用を示す。
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