違い / 違ういとは、日本語において特定の表現から存在が推定される形容詞の終止形及び連体形である。
概要
未然形 ――ない ――う |
連用形 ――ます ――た |
終止形 | 連体形 ――もの ――とき |
仮定形 ――ば |
命令形 |
---|---|---|---|---|---|
違わ 違お |
違い 違っ |
違う | 違う | 違え | 違え |
しかし実際には、活用がついつい形容詞のものに引っ張られる形になってしまうケースが見られる。
「く-て」「かっ-た」という活用は動詞ではなく形容詞のそれであり、故にここから演繹できるのは以下のような形容詞である。
未然形 ――う |
連用形 ――た ――ない ――ござる |
終止形 | 連体形 ――もの ――とき |
仮定形 ――ば |
命令形 |
---|---|---|---|---|---|
違かろ | 違かっ 違く 違う |
違い | 違い | 違けれ | - |
違うかろ | 違うかっ 違うく 違うう |
違うい | 違うい | 違うけれ | - |
しかしこの形容詞があると仮定しても、これを終止形・連体形で使用しているケースは確認できない。終止形・連体形としては動詞の「違う」が使われているのである。
「違かった」「違くて」などは福島県や北関東などで使われている方言であり、それが南関東に流入して若者の間で定着したのではないかと言われている。また、大分県佐伯市などでもこのような表現は使用されている。
また、西日本方言で「違う」を意味する「ちゃう」も「ちゃうかった」「ちゃうくて」と「違うかった」「違うくて」のように活用している。
井上史雄『新しい日本語―《新方言》の分布と変化― (1986) 』では、既に1980年代には首都圏でこの表現は若者の間に広く伝播していたことが指摘されている。
文法学者は言葉は変化するものであり、文法はそれを説明付けるためのものと規定することが多い。このため、このような表現についても「連語表現」として説明付けを試みている。『大辞林』第4版では「違くて」「違かった」「違くない」を連語表現として見出し語にしている。
一方で、言語学者以外からはしばしばこの表現はフォーマルなものではないとして、「言葉の変化」でなく「言葉の乱れ」として説明される。
表現の分析
「違う」は品詞こそ動詞とはいえ、その実態は形容詞や形容動詞に性質が似ており、命令形で『違え!』ということはまず日本人としてこの世に生を受けても死ぬまで一度もない者のほうが多かろう。実際、「違う」の対義語となるのは「同じだ (形容動詞) 」であり、動詞ではない。
このことから、形容詞のような活用が自然に受け入れられやすいのもあろう。そう考えると、「本来は終止形・連体形が存在するが、用法が衰退してしまった形容詞」とみなせるかもしれない。
類例に連体詞の「大きな」「小さな」「おかしな」が存在している。これらは活用しない連体詞だが、他の連体詞とことなり「すごく」「とても」「著しく」などの語をつけて程度を表すことができる。これは連体詞の本来の性質からは異質であり、むしろ形容詞・形容動詞のような性質と言えよう (実際に同じ意味を持つ形容詞「大きい」「小さい」「おかしい」が存在している) 。このため本来は「大きだ」「小さだ」「おかしだ」という形容動詞が存在していたが、その連体形以外の用法が衰退したのだ、と説明を試みる者も見かけられる。
ならば「違い」「違うい」という形容詞が本来はあったが、その連用形や仮定形だけが用法が残ってしまった、と捉えればおかしなことでもないのかもしれない。
また、首都圏の転訛を逆に見ることで「違い」という形容詞の終止形・連体形にも用例があるとみなせるという意見もある。
カレーが辛え!
蠅が速え!
これらはいずれも「辛い」「速い」「やばい」という形容詞が首都圏中心に使われる転訛によって変化したわけである。「ai→ee」と転訛することから、以下のような推測が立つ。
元の形容詞 | 転訛した形容詞 | ||
---|---|---|---|
辛い | karai | 辛え | karee |
速い | hayai | 速え | ha(y)ee |
やばい | yabai | やべえ | yabee |
(違い) | chigai | ちげえ | chigee |
ゆえに、「違い」は終止形・連体形としても用例がある、と主張できるわけである。
ただしこの説には毎日新聞の校閲記者・岩佐義樹は異論を示しており、「違いない」という表現から「ちげえねえ」に転訛し、その「ちげえ」が単独で使われているだけで、「ちげえ」の由来は動詞の「違う」の未然形である、というのである。しかし現に「ちげえ」は断定用法と連体詞的用法が見られることから、「違う」の未然形が由来とするのは考えにくい。岩佐は「違かった」「違くて」を「言葉の変化」ではなく「言葉の乱れ」として述べていることも考慮しておく必要はあろう。
関連リンク
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