アドマイヤジュピタ(Admire Jupiter)とは、2003年生まれの日本の競走馬。栗毛の牡馬。
名伯楽に挫折を乗り越えて初GⅠをプレゼントし、父の種牡馬評価も変えた遅咲きのステイヤー。
主な勝ち鞍
2007年:アルゼンチン共和国杯(JpnⅡ)
2008年:天皇賞(春)(GⅠ)、阪神大賞典(GⅡ)
概要
父*フレンチデピュティ、母ジェイズジュエリー、母父リアルシャダイという血統。
父は外国産馬として走ったノボジャックとクロフネの活躍で日本へ輸入されたアメリカの馬。きっかけがその2頭なので、輸入当初は主にダート短距離種牡馬として期待されていた。アドマイヤジュピタは輸入2年目の産駒。
母は俳優・陣内孝則が所有していた馬で、9戦2勝。アドマイヤジュピタは第3仔。
母父はシャダイカグラ、イブキマイカグラ、ライスシャワーなどを送り出し、1993年にはリーディングサイアーにも輝いたステイヤー型の名種牡馬。母父としてもトウカイポイントやイングランディーレを輩出している。
2003年3月1日、ノーザンファームで誕生。同年のセレクトセールにて、「アドマイヤ」冠名でおなじみ近藤利一オーナーに4100万円(税抜)で落札された。
馬名意味は「冠名+木星」。アドマイヤベガ、アドマイヤムーン、アドマイヤマーズと並んで、アドマイヤ軍団になぜか多い天体名の活躍馬である。文字数制限で「ジュピター」が「ジュピタ」になっているのはご愛敬。
果てしない時を越えて輝く星
夢を失うより悲しいことは
2005年、2歳になったアドマイヤジュピタは栗東・友道康夫厩舎に入厩した。今でこそダービー馬3頭など数々のGⅠ馬を輩出してきた名門として知られる友道厩舎だが、当時はまだ開業4年目の新興厩舎。この年の9月、ワンモアチャッターが朝日チャレンジカップで厩舎の重賞初制覇を挙げたばかりである。近藤オーナーは友道師の開業にあたって積極的に馬を預託してくれた懇意のオーナーという間柄であった。
ムキムキのフレンチデピュティ産駒ということで、友道師も「ダートの短距離馬かな」と思い、デビュー戦は2005年11月13日、武豊を鞍上に、京都・ダート1400mの新馬戦だった。ところが上がり最速の脚は見せたものの、そもそもスタートからペースについていけず8着止まり。
そこで芝に切り替え、当時まだ園田所属だった岩田康誠を迎えて阪神・芝1600mの未勝利戦に向かうと3着に好走。続く3戦目はさらに距離を延ばし、12月の阪神・芝2000mの未勝利戦に挑むと4馬身差で快勝する。
これで友道師もクラシックを強く意識するようになり、明けて3歳初戦は若駒ステークス(OP)へ。四位洋文を鞍上に、断然の1番人気だった武豊のフサイチジャンクを徹底マークして進めるも、あっさりちぎり捨てられて2着。
続いて安藤勝己を迎えてすみれステークス(OP)に向かい、外から押し上げて直線で3頭での叩き合いに突入したが、四位洋文のナイアガラと佐藤哲三のマイネルアラバンサに競り負けて3着。
オープン特別なので収得賞金も積めず、春のクラシック出走は厳しくなってしまった。それでも日本ダービーの夢を諦めきれない友道師は、中1週ですみれSと同条件の500万下・ゆきやなぎ賞にアドマイヤジュピタを出走させる。鞍上にも中央所属となった岩田康誠が戻り、2.0倍の1番人気に支持されたアドマイヤジュピタは、2番手追走から直線抜け出しの横綱相撲で2馬身差の快勝。ダービーへ望みを繋いだ……はずだったのだが……。
翌日、右後脚飛節の骨折が発覚。患部にボルトを入れる手術をすることになる重傷だった。陣営は秋の菊花賞を目指したが、結局それも断念。1年以上にわたる長期休養に入ることになってしまった。
市丸:そこから、若駒S2着、すみれS3着、そしてゆきやなぎ賞1着ときましたが……。
友道:当時は調教師になったばかりで、なにがなんでもダービーへ行こうと思っていて、そこでちょっと無理使いをして骨折してしまったんですね。飛節にボルトを入れるような大きなケガで。その経験があるので、それからは大事に使っていこうと心がけています。
心の静寂に耳を澄ませて
結局1年4ヶ月休み、復帰は4歳となった2007年7月、降級もあって新潟の芝1800m、平場の500万下だった。休んでいる間に身体も大きくなり、馬体重はなんと前走から+40kg(470kg→510kg)だったが、吉田隼人を鞍上にこの復帰戦を快勝する。
岩田康誠が戻った続く美作特別(1000万下)はクビ差2着に惜敗したが、鳴滝特別(1000万下)を1.2倍の断然人気に応えて5馬身差で圧勝、準OPに昇格する。
この強い内容で、次走は初重賞となるアルゼンチン共和国杯(JpnⅡ)に格上挑戦。鞍上は村田一誠がテン乗り、条件馬の身ながら1番人気の日経賞勝ち馬ネヴァブションと差のない5.1倍の2番人気に支持される。
レースは6番人気カゼノコウテイが大逃げ気味の逃げを打つ中を3番手で追走。直線入口で抜群の手応えのまま逃げ馬を捕まえて先頭に出ると、ややソラを使うところを見せながらも、府中の長い直線をトウカイトリックやリキアイサイレンスら後続の追撃を押し切って、鮮やかに重賞初制覇を飾った。
明けて5歳初戦は日経新春杯(GⅡ)。岩田康誠が戻り、2.6倍の1番人気に支持される。レースは好位から進めるものの、+16kgの太め残りが響いたか直線で伸びず、2歳上の同冠アドマイヤモナークの4着。
この敗戦で、続く阪神大賞典(GⅡ)では-10kgと絞ってきたものの7.5倍の4番人気に評価を落とす。断然の1番人気はGⅠで善戦を続けていた7歳馬ポップロックだったが、好スタートからすっと2番手につけたアドマイヤジュピタはスローの流れをしっかり折り合いをつけて進めると、「上がりの瞬発力勝負になったら負けない自信はありました」という岩田騎手のコメント通り、上がり最速34秒7の末脚で後続を全く寄せ付けずに2馬身半差で完勝。重賞2勝目を挙げ、大目標の天皇賞(春)へと狙いを定めた。
意味のないことなど起こりはしない
迎えた大一番、天皇賞(春)(GⅠ)。1番人気は前年の菊花賞馬アサクサキングス、2番人気は前年覇者メイショウサムソン。アドマイヤジュピタと岩田康誠のコンビは、大外8枠14番かつGⅠ初挑戦ながら、この2頭と人気を分け合う格好で5.8倍の3番人気に支持された。
ちなみにこの年の春天、出走14頭の中にアドマイヤ軍団はアドマイヤメイン、アドマイヤフジ、アドマイヤモナークと、なんと4頭出し。近藤オーナーは4陣営合同の決起集会を開くという並々ならぬ熱意でこの春の盾を取りに行っていた。
さて、ここまで見てきた通り、アドマイヤジュピタは好位追走が身上の先行馬である。当然このレースも岩田騎手は、逃げ馬ホクトスルタンを行かせての2~3番手でのレースを想定していた。アドマイヤジュピタの馬券を買っていた人の大半もその展開を予想していたはずだ。
ところがゲートが開いた瞬間、京都のファンの目に飛び込んできたのはものの見事に出遅れたアドマイヤジュピタの姿。そのまま後方4番手に構える展開となってしまう。
しかしこの出遅れでかえって開き直った岩田騎手は、そのまま後方でメイショウサムソンを見ながら折り合いをつけてレースを進める。向こう正面に入って徐々に進出を開始すると、3コーナーからメイショウサムソンを追って外を捲っていく。
勝負を分けたのは直線入口。前にいたアサクサキングスが外にヨレ、メイショウサムソンは進路をカットされてここぞのところでブレーキがかかってしまう。そこで一気に外からかわしたのがアドマイヤジュピタ。馬場の真ん中を通って先頭に立ったアドマイヤジュピタだったが、ここでソラを使う悪癖が出て、エンジンを再点火したメイショウサムソンの猛追を受ける。
再び並んできたメイショウサムソンと2頭並んでのデッドヒートとなったが、サムソンに並ばれて根性の二枚腰を発揮したアドマイヤジュピタは、ゴール前で力強く差し返し、最後はアタマ差振り切ってゴール板を駆け抜けた。
出遅れにも慌てない好騎乗で勝利に導いた岩田騎手は大きくガッツポーズ。普段はあまり感情を表に出さない友道師も、近藤オーナーの涙につられてもらい泣きのGⅠ初勝利となった。
その後
その後は宝塚記念をパスして休養し、秋へ向けて調整に入ったが、調教中に挫石を発症して、登録していた凱旋門賞も回避。秋は国内専念として京都大賞典(GⅡ)から始動したが、-14kgと明らかに調整も上手くいっておらず、ブービー9着に惨敗。
その翌週、右前浅屈腱炎を発症していたことが判明、そのまま現役引退となった。通算14戦7勝。
アドマイヤジュピタの天皇賞(春)に続いて、2008年の宝塚記念は1歳上の同じフレンチデピュティ産駒・エイシンデピュティが重馬場を逃げ切り勝ちし、父フレンチデピュティは「芝もダートも重馬場もいける、成長力があって配合次第で距離も保つ」という「万能」種牡馬としての評価が固まった。
クラシックの挫折を乗り越え、父の評価を塗り替えて、名伯楽に最初の大きな一歩を贈ったアドマイヤジュピタ。活躍期間は短かったが、その実績以上に大きなものを残した名馬であった。
引退後は社台スタリオンステーションで種牡馬入り。初年度は94頭に種付けした……のだが、血統登録されたのはなんと僅か17頭。あまりにも受胎率が悪すぎて、この1年限りでシンジケートは解散、種牡馬引退となってしまった。
その後は去勢され、ノーザンホースパークで乗馬となった。馬術競技馬として馬術大会に出ていたほか、乗馬上級者に限ってパークのお客さんも乗せていたようだ。
血統表
*フレンチデピュティ 1992 栗毛 |
Deputy Minister 1979 黒鹿毛 |
Vice Regent | Northern Dancer |
Victoria Regina | |||
Mint Copy | Bunty's Flight | ||
Shakney | |||
Mitterand 1981 鹿毛 |
Hold Your Peace | Speak John | |
Blue Moon | |||
Laredo Lass | Bold Ruler | ||
Fortunate Isle | |||
ジェイズジュエリー 1995 黒鹿毛 FNo.13-a |
*リアルシャダイ 1979 黒鹿毛 |
Roberto | Hail to Reason |
Bramalea | |||
Desert Vixen | In Reality | ||
Desert Trial | |||
*アサーション 1987 鹿毛 |
Assert | Be My Guest | |
Irish Bird | |||
Yes Please | Mount Hagen | ||
Thankfull |
クロス:Northern Dancer 4×5(9.38%)
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関連項目
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