オマツリオトコ(Omatsuri Otoko)とは、2020年生まれの日本の競走馬。芦毛の牡馬。
執念のグランド血統
名前からキタサンブラック産駒やマツリダゴッホ産駒と誤解する競馬ファンがちらほらいるが、そのどちらでもない。
父*ヴィットリオドーロ、母マツリバヤシ、母父スマートボーイという血統。
2020年1月31日、オマツリオトコは新ひだか町のグランド牧場で誕生した。
……はい、「なんか聞き覚えのない血統だなあ」と思った方、当然です。「母父スマートボーイ!」で驚いた方、通とお見受けいたします。ぶっちゃけ渋いを通り越して、なんでこんな血統の馬が中央で走ってるんだ、というレベルの超ドマイナー血統である。
何しろ父*ヴィットリオドーロはアメリカ産のマル外なのだが、重賞出走経験すらなし、主な勝ち鞍は「4歳以上1000万下」の条件馬。母マツリバヤシは2010年のエーデルワイス賞2着などの実績があるものの通算成績は11戦1勝の門別の地方馬である。
母父スマートボーイは1998年クラシック世代のダートの逃げ馬で、2004年まで長く活躍を続け重賞5勝を挙げたので記憶している人もそれなりにいるだろうが、勝ち鞍はいずれもGⅢ。種牡馬としても名の残る産駒はトウホクビジンがいる程度である。
彼のこの渋すぎる血統について、血統表を見ながらもう少し詳しく見ていこう。
*ヴィットリオドーロ 2009 黒鹿毛 |
Medaglia d'Oro 1999 黒鹿毛 |
El Prado | Sadler's Wells |
Lady Capulet | |||
Cappucino Bay | Bailjumper | ||
Dubbed In | |||
プリエミネンス 1997 鹿毛 |
*アフリート | Mr. Prospector | |
Polite Lady | |||
アジテーション | Caerleon | ||
*ランザリスク | |||
マツリバヤシ 2008 芦毛 FNo.1-l |
スマートボーイ 1995 鹿毛 |
*アサティス | Topsider |
Secret Asset | |||
アンラブル | *ノーリュート | ||
アラート | |||
サウンドカーニバル 2000 芦毛 |
バブルガムフェロー | *サンデーサイレンス | |
*バブルカンパニー | |||
*サウンド | Danzig | ||
Din | |||
競走馬の4代血統表 |
クロス:Northern Dancer 5×5×5(9.38%)
母系にバブルガムフェローが入っているあたりも渋いポイント高めだが、目につくのは、やはり父母プリエミネンスだろう。2002年エルムステークス、2003年浦和記念など混合戦3勝を含むダート重賞8勝を挙げたダートの女傑であり、7歳となった2004年に果敢にアメリカG1サンタマリアハンデキャップに挑戦、そのままアメリカで繁殖入りした。
単なる条件馬でしかなかったヴィットリオドーロが、種付け料20万円とはいえ曲がりなりにもアロースタッドで種牡馬になれたのも、アメリカで種牡馬として活躍しているメダグリアドーロの日本で初めての後継という点に加えて、プリエミネンスの息子という点も大きかったと思われる。
なお、ヴィットリオドーロは2021年限りで種牡馬を引退。現在は群馬の乗馬クラブアリサで乗馬となっている。産駒は7世代で44頭。オマツリオトコは9頭しかいない5世代目の産駒にあたる。
ここで「父母プリエミネンス、母父スマートボーイ」でピンときた人は相当な通とお見受けする。
プリエミネンスを含め、上記の血統表に名前太字で表記した馬の数に注目してほしい。
この太字の馬、全てグランド牧場の生産馬なのである。
父はマル外なのでグランド牧場産ではないが、アメリカでは母馬の所有者が生産者として扱われ、生産者はグランド牧場の代表となっているので彼も実質的にグランド牧場産と言って問題ない。産駒44頭のうち半分超の23頭がグランド牧場産だし……。
そう、オマツリオトコはまさしくグランド牧場血統の集大成とも言える馬なのだ。
ヤマノシラギク、スズカマンボ、ラブミーチャン、サンビスタ、メイショウダッサイなどを生産してきた日高の名門・グランド牧場。その執念の結晶とも言える血統なのである。
あと牝系について書き損ねたので補足しておくと、3代母*サウンドの産駒にハギノリアルキング、2代母サウンドカーニバルの半姉スプリットザナイトの産駒にアドマイヤモナークがいる。
また芦毛の由来は4代母Dinの父Droneの母母父Mahmoudを経由してのMumtaz Mahalから。
祭りだ祭りだお祭り男
1歳~2歳
「マツリバヤシの2020」として2021年の北海道サマーセールに上場された彼は、是枝浩平オーナーに1300万円(税抜)で落札され、「オマツリオトコ」と命名された。登録された馬名意味は「祭り好きな男。母名より連想」。血統のわりには落札価格が高めで(ちなみに半兄や半姉は500万円程度)、この時点から評価が高かったことが窺える。
そして入厩した厩舎は、父母プリエミネンス、母父スマートボーイがともに所属した美浦の伊藤圭三厩舎。このグランド牧場血統に相応しい厩舎と言えよう。
迎えたデビュー戦は2022年6月18日、函館6R・ダート1000mの新馬戦。横山武史騎手を鞍上に迎え、3.5倍の1番人気に支持された。
スタートが出ず後ろから追いかけて中団につけるレースになったが、大外を捲って直線入口で先頭に立つと、あとは他馬を置き去りにして一気に突き抜け、上がり3Fは2位に1秒2差をつける35秒3を叩き出して5馬身差で圧勝デビューを飾る。
ヴィットリオドーロ産駒はJRA初勝利。同日の函館5Rの新馬戦ではゴキゲンサンが勝っており、珍名馬の連勝でもちょっと話題になった。横山武史騎手は「強いけど粗削り。返し馬から口が利かなくて課題の多い馬。スタートも練習では速かったけど出なかった。今日は能力で勝ち切れた」とコメント。
続いては調教で芝を走っていたこと、洋芝ということもあって芝の函館2歳ステークス(GⅢ)に挑戦。鞍上は引き続き横山武史。
パワーのいる稍重の馬場とはいえ23.0倍の8番人気と評価は低く、さらにスタートでも出脚がつかず最後方ポツンの位置取りに。スプリントでこの位置では絶望もいいところ、やはり所詮はドマイナー血統のダート馬、もうあとは後ろで回ってくるだけ……かと思いきや、なんと4コーナーから猛然と追い上げて大外一気の強襲。勝ったブトンドールと逃げ粘ったクリダームには届かなかったものの、上がり2位のブトンドールを0秒8上回る上がり最速35秒8の末脚で3着に突っ込んでみせた。
2ヶ月半休み10月、3戦目はダートに戻って中京ダート1400mのヤマボウシ賞(1勝クラス)へ。鞍上は松山弘平がテン乗りとなり、3.5倍の2番人気。
課題のスタートを五分に決めて中団から内を追走すると、4コーナーも最内を回って直線へ。しかしなかなかエンジンがかからず、先行した1番人気スクーバーがそのまま粘り込みか……と思われた残り200m過ぎから一気に加速。あっという間に捕らえてかわし、逆に1と3/4馬身差をつけて差し切り勝ち。今回も上がりは2位に0秒9差をつけて着差以上の圧勝であった。
続いて横山武史が鞍上に戻り、兵庫ジュニアグランプリ(JpnⅡ)へ。3.7倍の2番人気。プラタナス賞を7馬身差で圧勝した1.5倍の1番人気トレドとの対決が注目された。
ところがトレドは1コーナーで競走中止(後に死亡。予後不良になったと思われるが詳細は不明)。最大のライバルが思わぬ形でいなくなり、オマツリオトコは前目でレースを進めると、4コーナーで前を捕まえて先頭に抜け出し、あとは後続を突き放す一方で4馬身差の圧勝。今回も2位に0秒7差をつける上がり最速37秒9で重賞初制覇を飾った。ヴィットリオドーロ産駒は交流重賞の北海道2歳優駿を勝ったイグナシオドーロ(門別所属、ちなみにこちらも母父スマートボーイ)以来の重賞2勝目。
ちなみに前日の浦和記念ではアスカクリチャン産駒クリノドラゴンが勝っており、ドマイナー種牡馬の産駒が2日連続で重賞制覇とまたちょっと話題に。
そのまま2歳ダート王を目指し、全日本2歳優駿(JpnⅠ)へ。オキザリス賞を圧勝したペリエールに次ぐ3.4倍の2番人気。
レースは今回もスタートを決めて前目で進め、逃げるマルカラピッドを見ながら4コーナーに入るが、外から1番人気ペリエールが先に楽な手応えでかわして先頭へ抜け出す。しかし直線に入るとオマツリオトコも内から猛追、マルカラピッドとペリエールの間に突っ込むと、一気にペリエールを捕らえてかわす。そのまま差し切り勝ち――かと思いきや、外から襲いかかってきたのが3番人気デルマソトガケ! 最後は横並びのゴールとなったが、アタマ差かわされ悔しい2着。上がり3Fも初めて最速を逃した。
横山武史騎手は「返し馬から左回りが得意そうではなくて、2走前の時もバランス良く走れていないように見えたのも不安材料でした。その不安がもろに出てしまいました。状態は悪くなかったですし、地力はあります。左回りより右回りの方が得意だと思います」とコメント。
3歳
明けて3歳は海外遠征には向かわず、ヒヤシンスステークス(L)から始動。しかしなんと斤量58kg。ヒヤシンスSは別定戦なのだが、兵庫JGと全日本2歳優駿で稼いだ賞金がネックになってしまったようだ。この斤量が懸念されて、最終的に4.4倍の3番人気。
レースは中団前目で進めたが、直線に入るとずるずる後退、そのままブービー13着に撃沈。やはりこの時期の3歳馬に58kgはキツすぎたようである。横山武史騎手は直線の途中で明らかに追うのをやめ、最後は完全に流してゴールしており、ブービーは無理をさせなかった結果のようだ。
続いては久々の芝となるニュージーランドトロフィー(GⅡ)へ。前走のようにダートのオープンで斤量を負わされるよりは、ということだろう。横山武史はルミノメテオールに取られて、永野猛蔵が初騎乗。レースは中団で進めるも、半マイルを過ぎたあたりからペースについていけなくなって後退し14着。
次走は脚元をダートに戻してユニコーンステークス(GⅢ)に出走。ヒヤシンスS勝利後にUAEダービーに出走し4着だったペリエールが1番人気、横山武史騎手が騎乗する複勝率100%の安定株ブライアンセンスが2番人気となる中、ミルコ・デムーロ騎手が初めて騎乗する本馬は4番人気となった。レースでは不運にも出負けし後方からとなり、上がり3F2位の末脚で追い込んだが、2着サンライズジークに3馬身差、3着ブライアンセンスには更に1馬身1/4差をつけてペリエールが完勝する中、3着と同タイム(クビ+アタマ+ハナ差)の6着に終わった。
賞金はそれなりに集まったという事で次走はジャパンダートダービー(JpnⅠ)へ。最後の南関東三冠馬を狙うミックファイアと今年の兵庫チャンピオンシップを圧勝したミトノオーの対決に注目が集まる中、一昨年のキャッスルトップの大金星に続く勝利を目指す。
主流血統の良血馬が鎬を削る中に、こういうマイナー血統から突然出てきた馬が殴り込みをかけてくるのもまた競馬の醍醐味。その名の通りのお祭り男として旋風を巻き起こせるか。
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関連項目
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