ハボクック(HabbakukあるいはHabakkuk)とは、
- イギリスにて計画された氷山空母計画。名前の由来は旧約聖書の一節という説がある。
- 小説「氷山空母を撃沈せよ!」にて登場するアメリカ軍の巨大空母。
- 「鋼鉄の咆哮」に登場する超兵器。 詳しくは→ハボクック(鋼鉄の咆哮) 。
本稿ではこれらすべてについて扱う。
1.の概要
時は第二次世界大戦、当時イギリスはご存知のようにドイツと交戦状態にあった。
当然戦争をするには補給をしなくてはならず、その物資を運ぶのにイギリスからは輸送船を使う必要があった。
そこでドイツはUボートを使い、大西洋上の輸送船を狩りまくっていたのである。
当時、潜水艦を捜し追い払う場合航空機が役に立ったのだが、当時のイギリスは十分な空母はなく同盟国のアメリカを頼ろうにもこちらは日本と太平洋でドンパチ中、という有様だった。
そこで立ち上がったのが、かつてドイツで迫害を受けたユダヤ系の家系の男性、ジェフリー・N・パイクである。
彼はたまたま聞いた「航路を邪魔する氷山の爆破に失敗した」というニュースに目を付け、海軍少佐のルイス・マウントバッテンとともに時の首相チャーチルに氷山を空母とする「氷山空母」のプランを提出したのである。
この氷山空母のプランは、全長約600m、全幅100m、排水量200万トン、搭載機数150機、40基の4.5インチ砲を搭載という船としてはとんでもなくデカい空母……というよりもはや洋上基地を、鉄骨による骨組みとカナダから切り出した28万個もの氷塊で構成するというものだった。
なお、最終的には強度と溶けやすさの面からこれらを解決したパイクリートというおがくずなどの植物繊維を混ぜ込んだ水を凍らせたものを使うように計画変更がされた。
では、この氷の船体をいかに保持するのか。答えは簡単で、船体に大量の冷却器を仕込むのである。
これにより被弾しようがちょっと溶けだそうが、穴の開いた場所に水を入れてほっとけば勝手に凍るという計画で、実現できればまさに不沈空母の名をほしいままにするはずだった。
この計画は承認され、なんとイギリス、アメリカ、カナダの3国共同開発となり、7000万ドルの予算と8000人の人員を8か月間にわたって投入しカナダでミニチュアを作るなどの実験が行われた。
が、ここにきて最大の敵が現れる。コストである。
氷、しかもそこらへんに浮いている氷山ではなく専用の材料がいる氷を作るにもタダではなく、さらに凍らせる必要があるので建造に時間がかかる。そしてこれだけデカいうえに氷の船となると、既存の建造ドッグでは作れず新たに設備を整える必要がある。
さらに飛行船や飛行艇による監視や、週間空母の登場、レーダーの進歩によりどんどんハボクックの意味は薄れていった。
そしてついにハボクックはその船体ではなく、計画を凍結させられてしまうのであった。
…時は流れて2009年、ディスカバリーチャンネルのおなじみの変態ドキュメンタリー「怪しい伝説」が氷山空母の検証を試みた。新聞紙を混ぜた氷でパイクリートを再現し、二人乗りの小型ボートを作ったものの、パイクリートの量が足らず、冷却も行われなかったためにボートはたちまち溶けてなくなってしまった。
名称について
この氷山空母のプロジェクト名は、ユダヤ教のヘブライ語聖書(キリスト教の旧約聖書)の一部である「ハバクク書(英語ではbook of Habakkuk、ブック・オブ・ハバクク。ヘブライ語ではספר חבקוק、ソフェル・ハバクーク。)」にちなんで、プロジェクト・ハバククと名付けられた。ヘブライ語聖書から名前をとったのは、パイクがユダヤ人であったためか。
なお、書名の「ハバクク」とはこの書に登場する預言者の名前である。だが、プロジェクト名はこの預言者に由来すると言うより、ハバクク書第1章第5節の記述
ヘブライ語:
ראו בגוים והביטו והתמהו תמהו כי פעל פעל בימיכם לא תאמינו כי יספר 英訳(「欽定訳聖書」版。ヘブライ語原文にはない、意訳のための文が追加されているため少し長くなっている。):Behold ye among the heathen, and regard, and wonder marvelously: for I will work a work in your days which ye will not believe, though it be told you.
にちなんでの名称であるとされている。
つまり世界を驚嘆させるような超兵器を目指したということ。男のロマンである。そこ、中二病とか言うなよ。ちなみにこの節は唯一神YHVH、すなわちヤハウェの御言葉である。
当時の計画書では「Habbakuk」とスペリングされている。英訳聖書の書名「Habakkuk」と比べて、bが1つ多く、kが1つ少ない。聖書の名前をそのまま使うのは畏れ多い、とかいう殊勝な姿勢とも取れるが、後年の書類ではしれっと修正されているそうなので、単なるミススペルだったようだ。まあ、元々ヘブライ語の発音を英語に音訳しただけの言葉なので、それっぽく発音できれば綴りなんてなんだっていいのです。英語聖書より歴史が古いラテン語聖書だって「ハバクク書」は「Habacuc」と綴っております。
日本では一般的に「ハボクック」との表記で知られている。
2.の概要
1.のハボクックの史実を元にした仮想戦記小説が伊吹秀明・著「氷山空母を撃沈せよ!」である。…だがそのスケールは史実の比ではない。全長1700m、全幅400m、基準排水量859万9500トン(いずれも自然増減あり)、搭載機数1000機。もはや金田中佐の50万トン戦艦ですら霞んで見えてしまい、比較相手はSDF-1マクロスというまさに史上未曽有の巨艦である! 史実で氷山空母計画が頓挫し自殺しかけたパイクをとある米海軍大佐が拾い上げ、エセックス級12隻の建造計画を中止してまで建造してしまったのが本艦である。…技術的、軍事的ツッコミはしてはいけない。そもそも「リアリティ無視」がコンセプトの物語なのだ。
幅400mの甲板は4本の滑走路からなり、B-17のような爆撃機も離着陸可能である。またその武装は搭載機ばかりではない。艦体中央部には多数の対空砲が林立し、空からの守りも万全だった。…まあ多少の爆弾を食らった所でできた穴に液体パイクリートを流しこんで凍らせればたちまち元通りになるのだが。また分厚い氷の壁の防御力は絶大で、魚雷は愚か戦艦主砲ですら受け付けない。動力は艦体中央にある発電プラントで、発生した電力で艦底に分散配置された多数のポッド推進器を駆動する。このポッド推進器はそれぞれ独立して操舵できるため本艦はその巨体に似合わずいかなる方向へも自在な機動が可能で、作中では雷撃機が発射した魚雷を艦尾を振って避けるという離れ業を見せた。弱点は巨体ゆえに速力が遅いこと、冷却プラントを破壊されれば鉄壁の防御も半減すること、大量の燃料を要するため、多数の油槽艦を随行せねばならないこと。米海軍はこれらを護衛するためにアイオワ級戦艦の建造を中止して 戦艦モンタナを投入した。
ハボクックは1942年6月にミッドウェイ海戦に初投入。実は搭載機数が予定よりも不足していたため本運用ではなく仮運用だったのだが、それでもミッドウェイ攻略を順調に進めつつあった南雲艦隊を単艦で圧倒、壊滅させてしまった。
1942年8月、孤立してしまったガダルカナル島の日本軍を救うべく日本海軍は第八艦隊による殴り込み作戦を決行。当初は成功するものの、終盤にまたしてもハボクックが来襲。日本海軍は虎の子の戦艦大和の投入を決定する。日本軍の奮戦と幸運により一旦はハボクックの撃退に成功したものの、米海軍は今度は氷山空母の試作艦「ユナイテッド・ステーツ」(史実のハボクックとほぼ同型)を投入。戦況は膠着したかに思われたが、ユナイテッド・ステーツは魚雷を艦尾に受け舵を破損(ユナイテッド・ステーツは独立分散駆動システムを搭載してない)して行動不能となり、その後激しい地上戦の末、日本軍に鹵獲される。
ガダルカナル海戦で撤退したハボクックは修理を終え、同時に予定していた1000機の艦載機を搭載。初めて「本運用」となった。マリアナ沖から立ち向かう日本艦隊を蹴散らしつつ日本本土に向け北上を続ける。一方、鹵獲されたユナイテッド・ステーツは千島列島沖で密かに修理、改修を受け「富嶽」と命名。氷山空母と何度も対戦した熟練のパイロットとドイツが設計した新型戦闘機を搭載して南方に向け出撃。今ここに、小笠原沖にて二隻の氷山空母による史上最大の海戦が幕を上げる。
3.の概要
肩書は「超巨大氷山空母」、元ネタとなった氷山空母と同じく、船体の大部分が氷で出来ている。
詳しくは→ハボクック(鋼鉄の咆哮) を参照されたし。
周辺の海水を取り込み自らの船体とする為、損害を受けても即座に修復が可能。つまり常時耐久力回復状態。
速力は全超兵器中でも鈍足で、武装に関しても目立った所はないものの(空母のくせに56センチ砲とか装備してるが鋼鉄的には気にしてはいけない)その特性ゆえにかなりしぶとい。
ハボクックと戦う際の一番の敵は「弾切れ」であるとも評される。事前にたっぷり余裕を持って挑みたい。
氷で出来てる以上は予想できるだろうが、多くの場合、火炎放射砲に類する高熱量兵器に弱い。
関連項目
外部リンク
- 3
- 0pt