ハル・ノート(Hull Note)とは、1941年11月26日にアメリカから日本に手渡された外交試案である。
概要
ハル・ノートという名称は、正式なものではなく、当時の国務長官であり、対日交渉を行っていたコーデル・ハル国務長官の名をつけて便宜的に呼んでいるものである。
書面のタイトルとしては、"Outline of Proposed Basis for Agreement Between the United States and Japan"、つまり、「日米間の同意のために提案された叩き台の概要」という建前になっている。
ハル・ノートの冒頭には、"Strictly confidential(極秘), tentative(試案であり) and without commitment(拘束力はない)"と記載してあり、アメリカからの最大限の要求を明示したものという色合いが強い。
内容的にも、アメリカがそれまで度々主張してきた中国・太平洋地域での権益の解放や、貿易の自由化を再度求めた形になっているが、当時は野党としてルーズベルトの日米開戦に反対だった共和党の党首ハミルトン・フィッシュは自身のメモに、「我々はハル・ノートについて何も知らなかった。外交委員である自分にさえ彼(フランクリン・ルーズベルト)は知らせていなかった。私はフランクリン・ルーズベルトがこのような要求を日本にしたことを知らなかった。このような要求をしたら、日本が戦争に訴えるのは当然だ。」と記している。
”we did not know such Hull note at all” ”He did not tell me who was a diplomatic committee either” ”I dod not know FDR demanded such things to Japan. It is natural for Japan to become war if it require such a thing”
そして「私は40年にわたり日米戦争を勉強してきた。そして私は驚くべきことを発見した。誰がハル・ノートを書いたか? アメリカ人でさえ驚くだろう。それはコミンテルンのスパイのハリー・デクスター・ホワイトだった。」とも発言している。
”I studied Japan-U.S. war for 40 years.And I discovered a surprising thing. it is who wrote Hull note?. Even the American will be surprised. this was Harry_Dexter_White who was a spy of Comintern”
ハリー・デクスター・ホワイトは財務次官補としてハル・ノートの草案(モーゲンソー案)作成に携わり、ソ連軍情報部の協力者であり、ソ連軍情報部と接触し、ホワイトの名にちなんだ「スノウ(snow)作戦」という工作に関係した事が1995年のベノナ文書開示により確認されている。
アメリカでは、まず南部仏印からの撤退と引き換えに、非軍事目的に限って石油の輸出を解禁するという、三ヶ月限定の暫定協定を結び、その後改めてハル・ノートにあるような恒久的な条約を締結する案もあったが、最終的にはこのハル・ノートのみが手渡される事となった。
この時点で、日本は12月1日までに外交的解決が行えなかった場合、対米攻撃を行うことを決定しており、真珠湾を攻撃する機動部隊は既に出発していた。
この段階から4日で対案をまとめて合意まで進めるのは不可能であり、アメリカが日本の中国戦略を承認することを前提として進められていた、アメリカとの外交協定締結をもって主戦派を抑える構想は頓挫することとなる。
一方で、建前上は外交試案で叩き台であるハル・ノートを渡した翌日27日朝にハル国務長官はスチムソン陸軍長官に"broken the whole matter off."と伝え、大統領はスチムソンに"talks had been called off."と発言している。
内容
タイトルの通り、これはアウトライン、つまり概要であるので、細かい条文などの記載は存在しない。全体としては、大きく第一項と第二項に分かれている。
まず、第一項では、日米が共同で太平洋の平和樹立と維持についての声明を行うことに触れ、内容として、、
を政治的原則とし、次に、
を経済的原則とする旨を提案している。
第二項では、日本の中国・アジア戦略において具体的に行う措置について述べられており、
- 日米共に紛争関係国(イギリス、タイ、中国、ソ連、オランダ)との不可侵条約を締結する
- 各国は仏領インドシナの領土主権を尊重し、問題が起こった際には協議して共同で対処する
仏領インドシナとの貿易についても各国が平等な扱いを受けられるように共同で取り組む - 日本は中華民国、仏領インドシナから軍および警察を撤兵させる
- 日米両国は中華民国を唯一の正当な中国政府として承認する
- 日米両国は、中国における外国人居留地、治外法権の放棄・撤廃のため、英国等他国にも同意させるよう努める
- 日米両国は、双方を最恵国待遇とし、生糸を自由品目とした通商条約締結に向けて協議を行う
- 日米両国は、両国内にある相手国資産の凍結を解除する
- 日米両国は、円ドルレートの安定のため協定を締結し、必要な資金は両国で折半とする
- 日米両国は、太平洋地域の平和確保・維持に反する可能性のある協定を他国と結んではならない
- 日米両国は、本協定の原則を他国にも遵守させるように外交努力する
の10項目が定められている。
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