当記事は日本国憲法無効論を支持する立場から執筆されています。 |
日本国憲法無効論とは、日本国憲法(昭和21年11月3日公布、昭和22年5月3日施行)は、「憲法として無効である」という主張である。
概要
日本国憲法無効論にはいくつかの種類があるが、ここでは南出喜久治の説について述べる。これは日本国憲法が憲法として無効であり、講和条約として有効である、というスタンスである。
簡潔に言えば、「占領された時に制定された日本国憲法は憲法じゃなくて講和条約である。だから、講和条約である日本国憲法を破棄して、大日本帝国憲法を改正するのが筋じゃないのか」という主張である。
例えるなら、のび太とジャイアンが喧嘩してジャイアンが一方的に勝った。しばらくジャイアンはのび太にあれこれ指図出来るが、のび太としてはそれを飲まなければボコボコにされてしまう。しかしやがて仲直りした後、のび太はジャイアンや周りの人間に「あの時受けた指図は仕方なく受けるしかなかったが、自分にとっては全く本意ではなかった」と言えるはずである、としている。
憲法として無効だと言う根拠
大日本帝国憲法第75条「憲法及皇室典範ハ摂政ヲ置クノ間之ヲ変更スルコトヲ得ス」を根拠としている。
これは「摂政を置いている間は国家の変局時であるから、そのような事態では憲法も皇室典範も変更してはいけない」ということを指している(憲法義解:伊藤博文著 より)。そして「摂政が置かれるどころか、GHQによって軍事占領され、天皇の自由意志があるかもわからない状態」は当然「国家の変局時」にあたると考えられる。
これは「摂政を置けば良かったのか」という議論ではなく、憲法を制定した時に想定した国家の変局時を大幅に超えている(元々法律には、書かなくて良いことは書かないため)。よって、この大日本帝国憲法第75条違反により、日本国憲法は憲法として無効である、としている。
また、GHQが原文を作成しGHQの監督下の国会で行われた憲法の改正は、国際法であるハーグ陸戦条約に違反しているという意見もある。具体例を上げるとオーストリアは敗戦を経てナチス・ドイツから独立した際に併合時の憲法を無効にした。
講和条約としての日本国憲法
講和条約とは、戦争を終結するために講和をする時に結ばれる条約である。
たとえそれが「憲法に抵触していたとしても、国家の存亡のためには飲まなければならないもの」であり、そうしなければ講和出来ずに占領され続けるか、侵略されるかの二択を迫られることになる。
そして、憲法として無効である日本国憲法は、これにより立法行為、行政行為、司法裁判を行ってきた事実を覆すことが出来ない以上、憲法以外の何らかの法規範として評価するべきである。
だとするならば、日本国憲法を講和条約だと評価すれば「大日本帝国憲法に反するけれども、日本国憲法は講和条約として戦後使われ続けてきた」と解釈出来る、としている。
無効の確認方法と、確認後の流れ
国会にて、国会決議において衆参で過半数で「日本国憲法の無効確認決議」をするだけでいい、としている。
これは政治的表明であり法的拘束力はないが、法的に既に憲法として無効なので、法的に確認するまでも無いと看做している。ただし、同時に「憲法としては無効であるが、講和条約として有効である」ことを確認しなければ、今までの法的安定性が著しく侵害される。
そしてこの時点において、日本国憲法自体が消滅するわけでも、またその効力が消滅するわけでもなく(破棄するわけでも、失効するわけでもないから)、更に大日本帝国憲法が復元するわけでもない(未だに講和条約である日本国憲法が存在し、その効力を失っていないから)、と考えられる。
更に講和条約として認められた際、日本国憲法の制定の後にサンフランシスコ講和条約が結ばれているので、「後に出来た法律の方が、前に出来た法律よりも優先される」ため、「サンフランシスコ講和条約に則って個別的自衛権及び集団的自衛権を行使出来る」としている。
憲法の取扱について
無効確認決議をした後、日本国憲法を破棄するまでに時間を掛けて、憲法草案を熟考していくべきであり、日本国憲法を破棄すると同時に大日本帝国憲法が復元されるため、破棄と同時に大日本帝国憲法の改正をすればよい、としている。
そうすれば瞬間的に大日本帝国憲法が復元されるが、大日本帝国憲法のまま今の国民の生活が変わることは無いとされる。
(日本国憲法の)憲法改正とはどう違うのか?
日本国憲法を改正してしまうと、日本国憲法が憲法として有効になり、日本国として「他国から暴力によって押し付けられた憲法を認めてしまう」ことになり、後世に渡って、他国から(特に中国)、又は、暴力革命やクーデターによって憲法を強要された場合、それを全て受け入れざるを得なくなってしまう。
さらには日本国憲法の正当性を担保するために、成立過程において嘘をつかなければいかなくなる(特に最近の公民の教科書では、GHQの単語すら出てこないのに、何故か日本人だけで日本国憲法を制定した、と書いてあるものがあるがアメリカのバイデン副大統領が「われわれアメリカ人が作ったものだ」と公言している)。そうした歴史の偽造は大日本帝国憲法にも及び、とにかく「大日本帝国憲法は自由が無い、悪いものだ」というイメージを刷り込まざるを得なくなり、日本国憲法を憲法として有効にすれば歴史偽造に正当性を持たせ、歴史偽造がエスカレートする可能性がある。
そして国体(国柄を指す言葉)について、日本の国体を大きく逸脱して制定された日本国憲法を有効にしてしまうと、今まで日本の少なくとも1500年(2671年)以上続いてきた歴史、伝統を否定することになり、取り返しのつかないことになることを、無効論の立場に立つ者は危惧している。
また日本国憲法の改正手続では衆参両院の総議員の2/3以上の賛成と国民投票における有効投票総数の過半数の賛成が必要となるが、こちらの手続では衆参両院の過半数の賛成+衆議院・(新)貴族院の出席議員の2/3以上の賛成のみで足り、国民投票を経る必要がないという違いもある(後述)。
国民投票は行われるのか?
日本国憲法の無効を確認するためには衆議院と参議院の出席議員の過半数の賛成を得ることで足りると考えられており、またそれに引き続いて行われる大日本帝国憲法の改正においては衆議院と貴族院の出席議員の2/3の賛成のみで足りる(大日本帝国憲法73条)ためである。
なお日本国憲法の改正手続に則って改憲案を通そうとした場合、衆議院と参議院の総議員の2/3の賛成を取り付けた上で、国民投票における有効投票総数の過半数の賛成がなければ改憲案が成立しない。そのため最終的に同じ改憲案を成立させようとする場合でも、日本国憲法無効論に則った方がハードルは格段に低くなる。
特に国民投票をオミットできるため、国民の半数の賛同を得ることが難しいような改憲案でも成立させられるというのが大きなポイントである。貴族院については勅選という性質上、改憲賛成派で2/3を揃えることは比較的容易である。この方法での最大のハードルは帝国憲法改正の段階で必要となる衆議院の2/3を確保するところになるだろう。
憲法有効派の主張に対する無効論者の反論
そもそもサンフランシスコ講和条約によって、昭和27年4月28日に完全な主権が回復したのに、主権の発動たる憲法が制定されるはずが無い。更にはそもそも「法的革命」が曖昧すぎる。
逆に言えば、別に戦後65年使ってきたのは「憲法として」ではなくていいのではないか。日本国憲法を憲法として有効とする以上、この戦後体制を保守していくだけにしかならず、「今更言うなよ」という主張こそがまさに「自虐史観」であり、「戦後体制保守」に他ならない。
この主張のデメリット
新憲法下の法律は全部無効になる
新憲法42条の上位法として旧憲法33条を有効とみなすのであるから、当然旧憲法37条(以下参照)が問題となる。
旧憲法下においては、貴族院の協賛を得なければ法律として認められない。旧憲法が有効であると解するならば、新憲法42条の参議院は貴族院ではないから、新憲法下で成立した全ての法律は無効と解すほかない。結局、無効論者のいう「法的安定性」など最初から存在しないという他ない。旧憲法23条にも罪刑法定主義はあるので、新憲法下の法改正によって新たに罪が規定されたものが全て無効になる。再審無罪判決が世にあふれるであろう。
新憲法下の行政訴訟が全て無効になる
行政官庁ノ違法処分ニ由リ権利ヲ傷害セラレタリトスルノ訴訟ニシテ別ニ法律ヲ以テ定メタル行政裁判所ノ裁判ニ属スヘキモノハ司法裁判所ニ於テ受理スルノ限ニ在ラス
すなわち、行政裁判は司法裁判所で受理してはならず、行政権たる行政裁判所でしか受理してはならないとしているのである。従って、戦後新憲法76条により行政裁判が司法権で裁判されることになると、旧憲法61条の「行政事件は行政権によって裁判されなければならない」に反するのである。よって、新憲法のもと司法権たる最高裁判所及びその下級裁判所でなされた行政事件の判決は全て無効になる。
平成天皇陛下の退位が無効になる
分かりやすく言うと、現在の日本国憲法無効論者は、全員今上天皇陛下に向かって「お前は天皇じゃねーわ」と主張しているのである。こんな不敬なことがあるだろうか。日本国憲法無効論が右翼の中ですら多数派になれない理由のひとつであるので、以下に解説しておきたい。
日本国憲法無効論は大日本帝国憲法第75条「憲法及皇室典範ハ摂政ヲ置クノ間之ヲ変更スルコトヲ得ス」を根拠として、「摂政を置くことよりはるかに大きい国家の変局時に改正されたから日本国憲法は無効だ」と主張しているが、もしその論を採るなら、占領下において皇室典範を大幅に改正し、扱いも天皇の家法から単なる法律に変更した「皇室典範及皇室典範增補廢止ノ件」及び皇室典範(昭和22年1月16日法律第3号)も当然無効である、と主張しなければならない。
ところで、今上天皇陛下はご自身が「日本国憲法及び皇室典範特例法の定めるところにより,ここに皇位を継承しました。」とご発言なさっている通り、単なる法律によって即位している(政府がしきりに「譲位」ではなく「退位」という言葉を用いているのは、平成天皇陛下ご自身の意思で譲っているのではなく、法律によって「退位」させている、という建前であるため)。旧皇室典範62条には「将来此ノ典範ノ條項ヲ改正シ又ハ増補スヘキ必要アルニ當テハ皇族会議及枢密顧問ニ諮詢シテ之ヲ勅定スヘシ」と規定されている。日本国憲法無効論は旧皇室典範62条がいまだ有効であると主張せざるを得ないから、皇族会議も枢密院も存在しないし、天皇陛下が勅定したわけでもない皇室典範特例法は無効と主張せざるを得ない。したがって、上皇陛下をいまだに天皇陛下としなければならないし、今上天皇陛下をいまだ皇太子としなければならないのである。
徴兵制が復活する
新憲法18条の上位として旧憲法20条が存在すことを認めるのであるから、当然であろう。
なお、現代における公務員任用は相手方の同意を要する行政行為説として解釈されており、例えば自衛隊への志願はその意思に瑕疵がある場合(詐欺・脅迫など)無効となる。旧憲法が復活すれば、志願兵の志願の意思に瑕疵がある場合(詐欺・脅迫など)でも、行政行為は完全に有効に成立し、もはや志願兵はその取消権を行使できない[1]という法解釈も復活させざるを得ない(天皇大権を復活させるため)。
その他
この主張のデメリットは「全く理解されないこと」、と無効論を説く者は主張している。戦後教育の賜物かもしれないが、この主張が「トンデモ論だ」と言われて一蹴されるのが常であり、「右翼的だ」・「復古主義的だ」と言われて見向きをされない、と看做している。
しかしこの主張は決して復古主義ではなく、「物事には道理があって、その道理に従って一度原点に戻ってから考えよう」という現状復帰主義なのである、と無効論を支持するものは指摘している。
大百科に記事のある無効論者
太字は国会議員。在野の急進右派勢力が主な担い手となっており、国政ではあまり支持が広がっていない。政党別では次世代の党に無効論者が多く集まっているが、党としては「現行憲法の破棄との立場はとらない」と明言している[2]。今のところ党レベルで無効論を採用しているのは極右政党の維新政党・新風のみである。
関連動画
関連商品
関連項目
- 憲法改正
- 日本国憲法
- 自由民主党憲法改正草案
- 憲法無効論 - Wikipedia
- 大日本帝国憲法
- 大日本帝国憲法第一章 - 天皇(第1条~第17条)
- 大日本帝国憲法第二章 - 臣民権利義務(第18条~第32条)
- 大日本帝国憲法第三章 - 帝国議会(第33条~第54条)
- 大日本帝国憲法第四章 - 国務大臣及枢密顧問(第55条~第56条)
- 大日本帝国憲法第五章 - 司法(第57条~第61条)
- 大日本帝国憲法第六章 - 会計(第62条~第72条)
- 大日本帝国憲法第七章 - 補足(第73条~第76条)
脚注
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