軽井沢スキーバス転落事故とは、2016年1月15日に長野県軽井沢町で発生した交通事故である。
概要
2016年1月15日午前1時55分頃、群馬県から長野県に向けて碓氷バイパスの入山峠付近の緩やかな下り坂を走行していたバスが、左側のガードレールに接触した後に、反対車線に飛び出して右側のガードレールを突き破って転落。バスは横倒しとなり、木に衝突するなどして大破した。
乗客乗員41人中、乗客13人、乗員2人(運転手と補助員)が死亡し、1人が重体、24人が重軽傷を負った。バス事故として10人以上の死者が出たのは30年ぶり、つまりここ30年で最悪のバス事故である。
このバスは、東京都渋谷区のツアー会社「キースツアー」が企画し(ただし、別の旅行会社2社の客も乗車していた)、(旅行会社「トラベルスタンドジャパン」を仲介する形で契約した)東京都昭島市のバス会社「イーエスピー」が運行していた原宿から長野県飯山市の斑尾高原に向かうスキー旅行(企画旅行)の貸切バスであった。格安であったと言うこともあって乗客の大半が大学生であり、死亡した乗客は全員が大学生であった。
死者
- 乗客:13人
- 乗員:2人
道路の状況
事故を起こした現場である碓氷バイパスは、碓氷峠経由の国道18号のバイパスとして1971年に有料道路として開通したが、急カーブが多い難所である。後に1993年に上信越自動車道(藤岡IC~佐久IC間)が開通し、楽に碓氷峠を超えられるようになったため、群馬県と長野県の間は上信越自動車道を通過するのが基本となっている。
それでも碓氷バイパスを通過する車は存在し(特に無料化された2001年以降)、ある程度交通量がある。ただし、夜間は街灯が少ないため、走行するには注意が必要である。
事故を起こしたバスも行程表では松井田妙義ICから上信越自動車道に乗ることになっており、この計画は安全基準を満たしていた。しかし、実際に運転手に渡された運行指示書には出発地と目的地しか書かれておらず、どこを経由するのかは全く記載が無かった。このため、不慣れな運転手が道に迷って上信越自動車道ではなく碓氷バイパスを走行した可能性がある(運転手については後述)。しかし、これについては乗務員が死亡してしまったため、謎のままである。
事故現場については道路が凍結していなかったことや入山峠付近(つまり上りから下りに切り替わる部分)であることから、居眠り運転もしくは上りが終わって気が緩んでしまったものと考えられるが、これも謎のままである。なお、事故現場にはタイヤ痕が1本しかないことから、下り坂でスピード超過になっていたところで事故直前にカーブを曲がろうとして急ハンドルを切った結果(急ブレーキを踏んだ可能性もある)、片輪走行状態になってしまったようである。
ツアー会社とバス会社について
まずツアー会社である「キースツアー」であるが、格安・激安を謳って格安の企画旅行を販売していた。その安さは長野県のスキー旅行が最安で1万円を切るほどであった。なぜ激安価格を提供できたかというと、代理店販売やシャトルバス料金をカットしたからと公式には記載されている。当然ツアーの中身も値段相応であり、手配されたホテルがボロボロであったり、食事が貧相である、契約内容と実際が異なるなどかなりよろしくないものであったようである。また、旅行条件書には事故を起こした際の賠償金請求・回収が困難であるため、保険加入をお願いするような文章が書かれている。
最終的に「キースツアー」は、1月15日以降のツアーを全て中止した。
その後、「キースツアー」は「トラベルスタンドジャパン」に対して、「今冬は雪は少なく運賃を値下げしなければ客が来ない」として、往復バス運賃の法定運賃(約27万円)を下回る運賃(約19万円)でバス手配の契約を結んでいたことが明らかとなっている(本来は安全軽視を防ぐため、法定運賃を下回ると道路運送法違反となる)。また、こういった低い運賃での契約があったために高速道路を一部区間しか走ることが出来なかったとの証言もある。
次にバス会社である「イーエスピー」。この会社は2012年に運送事業許可を得たばかりで、乗務員は他からの転職であった。事故を起こしたバスの運転手も昨年までは別の会社で小型バスを運行しており、大型バスの運行経験は無かったようである。
2015年2月の国土交通省の立ち入り捜査では、運転手の健康診断、酒気帯び確認、入社前の適性検査などを怠っていたことが発覚し、事故の2日前にはバス1台の運行停止処分を受けていた(たった1台に見えるが、「イーエスピー」は全部で8台しかなかったようで、これは運行に影響を及ぼすものである)。事故を起こしたバスの運転手は1度も健康診断を行っておらず、2月に行う予定だったとしている。
シートベルトの装着を徹底していなかったことが明らかになったほか、事故による特別監査では事実と異なる書類が発見され、安全管理がずさんであった可能性が浮き彫りとなっている。
ツアーバスの抜け穴
一般的に「ツアーバス」と言うと、2013年に新制度高速バスに統合された「バスだけの企画旅行」のことを想像しがちであるが、本来の意味では「企画旅行の一部であるバス」も含むのである。一般的な「ツアーバス」は2012年に関越自動車道での事故が起きたことや、格安料金のバスが存在していたことから、新制度高速バスに統合されて消滅した(このあたりは「ツアーバス」が詳しい)。
しかし、本来の意味での「ツアーバス」は残っており、そこでの格安設定のバスは今日まで事実上見過ごされていた。これは「バスを企画旅行の一部」にしてしまえば、格安バスを走らせられると言うことになり、これが抜け穴となっていた。こういった抜け穴が今回の事故を起こしたとも考えられることから、いつこういった事故が起きてもおかしくない状況だったとも言える。
バス全体で改めて安全対策を見直さなければならないのは明らかであり、場合によっては企画旅行の格安設定も困難になることであろう。もはや、格安で旅行すると言うことが現実的ではなくなってきたとも言えるかもしれない。
再発防止策とこの事故の教訓
まだ事故が起きたばかりなので、具体的な政府の施策等は未定であるが、インターネット上では規制緩和の見直しや、安全基準の強化、許可制から免許制への回帰といった対応が考えられている。
また、我々消費者としても、安値思考になり過ぎないことや、高くても鉄道や飛行機と言った移動手段を採用することで被事故の確率を格段に減らすことが可能である。死亡事故に至らずとも、報道されないだけで死者が出なかった接触事故や危うく事故になりかける事例はもっと多く起きているのである(ハインリッヒの法則)
今回の事故でも、難を逃れ救助された人の中には「車で帰りたくない、新幹線で帰りたい」と訴えた人もいたが、事故に遭ってから嘆いても遅いのである。食品でもそうだが、特にこういった自身の身体・生命に関わるような事に対して、投資を惜しむのは悪手だろう。ちなみに、とある会社の社長は「若い時こそ無理してでも新幹線のグリーン車や飛行機のファーストクラスに乗れ、世界が違って見える」と言ったそうである。
関連動画
関連項目
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