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ミルリーフの血。
通算3勝は全てGIレースだった。
強い馬と戦うほど闘志を見せ、大きな舞台で走るほど底力を発揮する。
あのイナリワンの勇猛さは偉大な祖父ミルリーフから受けたものに違いない。
早死したミルリーフは短期間に多くの名馬を送り出し、イギリスの馬産を大きく復興させたが、
産駒の多くは種牡馬として意外に不振だった。
下級レースを2勝しただけのミルジョージはそんなミルリーフが子孫の繁栄を託したかのように日本で大成功した。
小さな身体と強靭な筋力はミルジョージからイナリワンへ密かに伝えられ、
ここにミルリーフ血脈健在なりと世界に向けて訴える。
イナリワンとは、1984年生まれの競走馬。「平成三強」の一角と呼ばれた名馬である。
ライスシャワーの前までは「競馬界最強のKY」と呼ばれていたのは内緒。
主な勝ち鞍
1987年:東京王冠賞、東京湾カップ
1988年:東京大賞典
1989年:天皇賞(春)(GI)、宝塚記念(GI)、有馬記念(GI)
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この記事では実在の競走馬について記述しています。 この馬を元にした『ウマ娘 プリティーダービー』に登場するキャラクターについては 「イナリワン(ウマ娘)」を参照してください。 |
概要
父ミルジョージ 母テイトヤシマ 母父ラークスパーという見事な地方競馬血統。なので当然、大井競馬場に入厩した。
牧場時代はぼさっとした馬であったというイナリワン。小柄ながら瞬発力には目を見張るものがあったらしい。
ところが彼、ハンドルを(？)握ると性格が変わる性質だったらしいのである。兎に角馬場に入ると性格が豹変。騎手のコントロールを受け付けない暴走兄ちゃんになっちゃうのであった。
新馬を楽勝。陣営がクラシックへの期待をしたのも束の間。次走でゲートで暴れてなんと頭をゲートに強打！出走取り消し。それどころか春の南関東クラシックを棒に振ってしまう。しかし復帰後は流石の強さを発揮。秋まで連勝を続けて三冠最後の東京王冠賞に出走し、これを楽勝する。さらにこの年から施行された年の瀬の4歳限定重賞東京湾カップも制して、デビューから8戦8勝、無敗で4歳シーズンを終える。なんで東京大賞典へ向かわなかったのだろうと不思議な感じもする。これは古馬になったらどれほどの馬になるだろう、と期待も膨らんだ。
ところがイナリワン、水を含んで滑りやすい重馬場のダートはからっきしダメだったのである。小柄な馬体の割に一歩一歩の跳びが大きく、良馬場で砂をしっかり掴めないとまるで力が出せない馬だったのだ。悪いことにここから重馬場のレースが3つ続いて上半期の大一番・帝王賞も含めていいところなく3連敗。オールカマーからジャパンカップを目指そうという計画もあったが、この成績ではそもそもジャパンカップ以前にオールカマーの地方競馬代表に選出されるところまでさえ行かない。やっと良馬場になった秋の東京記念も3着、初の遠征となった地方競馬全国交流の全日本サラブレッドカップでは、当時の地方競馬最強馬フェートノーザンに完敗の2着。とはいえイナリワンのストライド走法に合わない小回りでカーブのきつい笠松競馬場で騎乗ミスもあった上での2着に、陣営は復調の手応えを感じたという。
どうも4歳のときに集めた期待ほどの馬ではないのかも、と思えるようなここまでだが、ジャパンカップを目指そうかとも考えていたことからもわかるように、陣営は「この馬、芝向きなのでは？」と全然違うことを考えていた。そして「暮れの東京大賞典に勝ったら中央競馬に移籍して春の天皇賞を目指す」とブチ上げる。この年、1歳年少のオグリキャップが笠松から中央に移籍して大活躍を見せたように、地方から中央への移籍自体は当時として自然なことではあった。しかし、この年5戦して勝ちのない馬が勝利を移籍条件に掲げるのは外野からするとにわかに信じがたいが、陣営はもちろん本気も本気だった。イナリワンはこの東京大賞典に見事勝利し、宣言通り6歳にして中央競馬に移籍することになった。
ところが、美浦にやってきたイナリワンは環境の変化に対応出来ずげっそりダイエットしてしまい。しかも競馬では掛かりまくって4着・5着。見ていた岡部幸雄騎手は大井の関係者に「イナリワンてこんなに走らない馬なの？」と聞いたそうである(その答えは「いや、あんなもんじゃないですよ。騎手が下手なだけです」だったとか)。
続く天皇賞。騎手が武豊騎手に交代になる。武騎手と言えば馬への当たりが柔らかで、馬に無理をさせない事で有名。イナリワンには良く合うタイプだった。本来なら前年の菊花賞馬スーパークリークに騎乗するはずだったのだが、トモのコズミ(後ろ脚の筋肉痛)が続いていたために休養に入っており、予定が空いていたのである。
レースでは好位から内を通って抜け出すと物凄い伸びで後続を完封。なんと中央初勝利をGIで飾ったのだった。まぁ、みていた人は「イナリワンつえ～」ではなく「武豊うめ～！」と思ったものだったが。だが、もちろん彼だって凄い。なにせコースレコードである。
次走、宝塚記念。イナリワンは二番人気。直線、物凄い勢いで追い込むフレッシュボイスを抑えて優勝。この勝利は正直「天皇賞はまぁ、まぐれ」思っていた連中を沈黙させる強さだった。4コーナー先頭の苦しいレースだったからね。
こりゃ、秋も凄いぞ！と誰もが思った。しかしながらこの年の春、実は故障休養でいなかった馬が二頭いた。一頭は前述のスーパークリーク、そしてもう一頭は言わずとしれたオグリキャップである。後にこの三強は「平成三強」と並び称される事になる。
武豊騎手は、秋になると当然のように最愛のスーパークリークの元に戻ってしまう。GI連勝馬を見捨てるなんてどんだけスーパークリーク好きなんだよ！とファンは突っ込んだものだ。実は武騎手、イナリワンの気性の荒さをかなり怖がっていたらしい。それでも勝つのが当時のユタカさんなんである。あの頃のユタカさんは馬語しゃべれんのか？ってくらい折り合いが上手い騎手だった。
代わりにイナリワンの手綱を取ったのは柴田政人騎手。岡部幸雄と並び立つ関東の双璧。不足は無い。
秋シーズンの初戦は毎日王冠。秋の天皇賞を目指してのステップレース、すでにオールカマーでは復帰したオグリキャップが楽勝していた。毎日王冠と同日の京都大賞典にはこれも復帰したスーパークリークが出て圧勝。となればここはイナリワンの一人舞台・・・とはならなかった。オールカマーから中2週でオグリキャップがまた出てきたのである。オールカマーを使うことで馬体を仕上げようと思ったらレース後も毎日カイバを貪り続けむしろ太くなりそうだったので、急遽予定のなかったここに出てきたのである。
直線で外に持ち出したのはオグリキャップ。その内にマークするようにイナリワン。唸りを上げてメジロアルダンをねじ伏せるオグリの豪脚。しかし、それを上回るイナリワンの鬼脚。勝った！と思った瞬間、ありえないオグリの差し返し！イナリワンは僅かに二着に敗れた。正直、見た後は「うわ、俺、とんでもないもの見ちゃった・・・！」と呆然としたくらい凄いレースだった。オグリギャルはキャッキャ騒いでたけど。
しかしこの激走が祟ったのか、秋の天皇賞は6着。ジャパンカップは11着惨敗。
春の強さ、毎日王冠の激走はマジで強かったのだが、どうもオグリキャップとスーパークリークよりは一枚劣るのかな？という評価になりつつあったイナリワン。迎えた有馬記念では4番人気だった。
このレース、オグリキャップが珍しく引っ掛かり、これをスーパークリークと武騎手も深追いしてしまう。かなり速いペース。直線入り口でオグリを競り落としたスーパークリーク。堂々とした競馬でゴールへ向かったのだったが・・・。
そこへ桁違いの瞬発力を見せ付けて飛んできたのがイナリワンと柴田騎手だった。
最後の最後で鼻差交わして優勝。イナリワンが「見たかユタカさん！」と叫んだかどうかは定かではない。ちなみにこの時のコースレコードで駆け抜けている。彼はこのレースが評価されて年度代表馬にも選出された。グランプリ連覇はスピードシンボリ以来という快挙だった。が、ユタカファンのおねえさん達は「ユタカの勝利を盗んだ！」「空気よめ！」と怒っていた。しらんがな。
翌年も現役を続行したものの、春の天皇賞でスーパークリークに雪辱され2着。宝塚でも4着と勝てず、引退。引退式はあの伝説の有馬記念の昼休みに行われた。その数時間後にオグリコールで日本全国が涙に濡れる事になる。
一年でGIに三勝するというのはなかなか出来る事ではないし。その内二回はコースレコード決着。その強さは疑い無く本物である。ところが、彼は中央で一番人気になった事が一度も無い。GIに勝つまでも勝ってからも無いのである。
これは偏に、当時に「人気がやたらある馬」が多過ぎたからだろう。当時はオグリブームが加熱し、競馬なんて良く知らないという連中が競馬場にたくさんいた時代である(もうそんな時代は来ないだろうなぁ)。イナリワンのように「元地方の馬？よくわかんな～い」みたいな馬はなかなか人気にならなかったのだ。それにしても有馬の後の阪神大賞典でミスターシクレノンに一番人気を奪われたのは何故なんだろう・・・(実際馬群に沈んだんだから文句は言えないけど)。
気性のせいか、糞強い時とボロボロの時がハッキリしていた馬であり、柴田騎手になってからはどうも危ない馬であった。武騎手が乗り続けていたらどれほど勝ち続けたのだろうか。その意味でスーパークリークに恨み言を言いたくなる。
引退後は種牡馬入り。地方競馬でそこそこ活躍した馬が出たが、期待されたほどの成績は上げられなかった。とはいえ、オグリやクリークよりはましかも、くらいの結果は出している。種牡馬を引退した後はポニーファームへ移るのだが、その後もこれほどの馬なのになかなか余生が安定せず、北海道から茨城の乗馬クラブへ移るなど居所を何度も転々として、「行方不明」になりはしないかとファンをやきもきさせた。齢30に達して北海道占冠村のペンションで飼われるようになると功労馬助成金も受けて、ようやっと終の棲家を得た。
人気の面では面ではライバルたちに劣ったものの、キャラ立てではよしだみほさんのおかげもあり負けていなかったイナリワン。年下だったオグリとクリークが2010年に25歳で立て続けに亡くなる中で長命を保ち、2016年2月に永眠。父ミルジョージと同じく32歳の大往生であった。これによって、平成初頭の競馬ブームを支えた3頭は天国で揃い踏みすることとなったのである。
血統表
| *ミルジョージ 1975 鹿毛 |
Mill Reef 1968 鹿毛 |
Never Bend | Nasrullah |
| Lalun | |||
| Milan Mill | Princequillo | ||
| Virginia Water | |||
| Miss Charisma 1967 鹿毛 |
Ragusa | Ribot | |
| Fantan | |||
| *マタティナ | Grey Sovereign | ||
| Zanzara | |||
| テイトヤシマ 1970 鹿毛 FNo.5-h |
*ラークスパー 1959 栗毛 |
Never Say Die | Nasrullah |
| Singing Grass | |||
| Skylarking | Precipitation | ||
| Woodlark | |||
| ヤシマジェット 1960 鹿毛 |
*ソロナウェー | Solferino | |
| Anyway | |||
| ヤシマニシキ | *セフト | ||
| 神正 | |||
| 競走馬の4代血統表 | |||
近親には曾祖母ヤシマニシキの全弟で二冠馬のボストニアン、安田記念勝ち馬のスカッシュソロン・バンブーメモリーらがいる。
主な産駒
- シグナスヒーロー (1992年産 牡 母 スワンスキー 母父 マルゼンスキー)
- ツキフクオー (1992年産 牡 母 オトギバナシ 母父 *ディクタス)
- ボストンエンペラー (1993年産 牡 母 *レディーオブアイルランド 母父 Be My Guest)
- ミナモトエリモ (1996年産 牝 母 エリモセーラ 母父 *ラシアンルーブル)
- セイントピアス (1997年産 牝 母 セイントローレル 母父 *レシテイション)
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関連コミュニティ
関連項目
- 競馬
- 競走馬の一覧
- 1987年クラシック世代
- オグリキャップ
- スーパークリーク
- フレッシュボイス
- ヤエノムテキ
- 柴田政人 － 中央時代の主戦騎手
- 福永洋一 － 大井時代の調教師・福永二三雄の兄
- 川田将雅 － 大井時代の主戦騎手・宮浦正行(現・調教師)の甥
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