(※本記事内の「2022年3月23日、日本の国会での演説」の節では、ウクライナ国営通信社「ウクルインフォルム」の日本語版ウェブサイト(https://www.ukrinform.jp/)から、該当の演説の仮訳文を引用しています。)
本記事では、ウクライナ第6代大統領ヴォロディーミル・オレクサンドロヴィチ・ゼレンスキー(以下、ゼレンスキー大統領)による演説(またはスピーチ)について記載する。
概要
ゼレンスキー大統領の就任期間中である2022年2月24日、ロシアによるウクライナ侵攻が勃発した。
この非常事態を受けて、ゼレンスキー大統領はウクライナ国内向けに、および国外の各国やEU等国際機関に向けて、多数の演説やスピーチを行った。
元芸能人という経歴もあってかカメラの前でのトークには元々長じており、さらに本人やスピーチライターが優秀であるのか内容も聴者の心を掴むものであった。
特に、他国に向けた演説はその国の歴史や文化を踏まえたものとなっており、対象国内で多くの反響を得るばかりか、他国の住民からも「あの国では何を話したのだ?」と興味を持たれることもあった。
(ただし、あくまで該当国に向けた演説のため該当国以外の人が聴くと一部違和感を覚えるような発言もあったりする。こればかりは各国の国民性や歴史視点の違いによるものなので仕方ないところもあるが。)
なお以下の紹介では省いているが、他国の議会で行われた多くの演説ではほぼ毎回、その国から寄せられた支援について多大な感謝の念を示している。
さらに、多くの演説において、子供の死者数について触れている。その死者数は日が進むごとに数字が増えている。
2022年2月25日、Facebook投稿動画でのスピーチ
ロシアは軍事大国であるため、侵攻が始まれば数日でウクライナの首都キーフは陥落すると想定されていた。そのため侵攻開始の翌日の2月25日には早くも「ゼレンスキー大統領など政府首脳はキーフを脱出するのでは」「既に脱出したのでは」といった憶測(あるいはプロパガンダ)も流れていたようだ。
しかし同日の夜にはゼレンスキー大統領が自らのFacebookアカウントに動画を投稿。自らが、そして政権の中心スタッフが首都キーフに居る事を示してプロパガンダを一蹴し、「私たちは皆ここに居て、私たちの国の独立を守っています」とアピールした。
ツイートを読み込み中です
https://twitter.com/bbcnewsjapan/status/1497381974671249412
- 「私たちはここにいる、独立を守る」 首都からウクライナ大統領が政府幹部と - BBCニュース
- Volodymyr Zelensky takes to the streets to rally people against Russian invaders - YouTube
原文
Всім добрий вечір.
Лідер фракції тут.
Голова Офісу Президента тут.
Прем’єр-міністр Шмигаль тут.
Подоляк тут.
Президент – тут.
Всі ми тут.
Наші військові тут.
Громадяни суспільства тут.
Всі ми тут, захищаємо нашу незалежність, нашу державу.
Слава нашим захисникам.
Слава нашим захисницям.
Слава України.
和訳全文
こんばんは、みなさん。
大統領府長官がここにいます。(※アンドリー・イェルマーク長官)
ポドリャクがここにいます。(※ミハイロ・ポドリャク大統領府顧問)
(※シュミハリ首相、スマートフォンを取り出して待ち受け画面の時刻を見せる)
私たちは皆ここにいます。
そして、これからもそうしていくでしょう。
2022年3月1日、EU議会での演説
2022年3月1日に、ヨーロッパ連合(EU)の欧州議会で行われたオンライン演説。途中で心を打たれた通訳が声を詰まらせる場面もあったという。
- 【演説全文】ゼレンスキー大統領 EU議会で何を語った? | NHK | ウクライナ情勢
- With Ukraine, the European Union will definitely be stronger - President at the session of the European Parliament — Official website of the President of Ukraine
子どもの死者数について:
Once again, President Putin will say that this is “an operation, we are firing at the military infrastructure." Where are our children? What military plants do they work at? On which rockets are they? Maybe they ride in tanks? You killed 16 children.
(プーチン大統領はまた、「これは作戦だ、我々は軍事施設を攻撃しているのだ」と言うでしょう。我々の子どもがどこに居たと言うのですか?軍事施設で彼らが働いていたとでも?ロケットに乗っていると?戦車に乗っているかもしれないと?あなたは16人の子どもたちを殺したのです。)
2022年3月8日、英国議会での演説
2022年3月8日に、イギリス議会で行われたオンライン演説。
イギリスの偉大な劇作家ウィリアム・シェイクスピアの『ハムレット』の一節「To be, or not to be」に言及。第二次世界大戦時のイギリスの首相ウィンストン・チャーチルの演説の一節になぞらえた言葉も盛り込まれていた。
- 【演説全文】ウクライナ ゼレンスキー大統領 何を語った? | NHK | ウクライナ情勢
- Address by the President of Ukraine to the Parliament of the United Kingdom — Official website of the President of Ukraine
We shall fight on the seas and oceans, we shall fight with growing confidence and growing strength in the air, we shall defend our Island, whatever the cost may bew we shall fight on the beaches, we shall fight on the landing grounds, we shall fight in the fields and in the streets, we shall fight in the hills; we shall never surrender.
(我々は海と大洋で戦う。我々は自信を強め、力を強め、空で戦う。我々は我々の島をいかなる犠牲を払おうとも守る。我々は海辺で戦う。我々は着陸場で戦う。我々は野原や街中で戦う。我々は丘で戦う。我々は決して屈しない。)
We shall fight in the seas, we shall fight in the air, we shall defend our land, whatever the cost may be. We shall fight in the woods, in the fields, on the beaches, in the cities and villages, in the streets, we shall fight in the hills... And I want to add: we shall fight on the spoil tips, on the banks of the Kalmius and the Dnieper! And we shall not surrender!
(我々は海で戦います。我々は空で戦います。我々は我々の地をいかなる犠牲を払おうとも守ります。我々は森で、野原で、海辺で、都市や村で、街中で戦います。我々は丘で戦います……そして私は付け加えたい、我々はボタ山(※)でも、カリミウス川やドニプロ川の岸辺でも戦います! 我々は決して屈しない!)
(※鉱業で排出された土石が積み上げられて形成された山。ウクライナは地方によっては炭鉱業などによりボタ山が多数存在する。例えばドンバス地方など。)
子どもの死者数について:
In 13 days of the Russian invasion, 50 children were killed. 50 great martyrs. This is dreadful! This is emptiness. Instead of 50 universes that could live, they took them away. They just took them away.
(ロシアが侵攻した13日の間に、50人の子どもが殺されました。50人の大いなる殉教者。これは恐ろしい事です!これは虚無です。生きられるはずだった50の宇宙が、彼らに奪われてしまったのです。彼らはただ奪ったのです。)
2022年3月11日、ポーランド議会での演説
2022年3月11日に、ポーランド議会で行われたオンライン演説。
2008年に同国のレフ・カチンスキ大統領がロシアに侵攻されていたジョージアを訪問した際に述べた言葉を引用し、また2010年にスモレンスク近郊で起きた悲劇(前述のレフ・カチンスキ大統領が死亡した、ポーランド空軍Tu-154墜落事故のことか)についても触れた。
I will recall the words of President of the Republic of Poland Lech Kaczyński said in Tbilisi in 2008: "We know very well: today - Georgia, tomorrow - Ukraine, the day after tomorrow - the Baltic countries and then, perhaps, the time will come for my country - Poland”.
(2008年にポーランド共和国大統領のレフ・カチンスキがトビリシで言った言葉を思い出します。「我々は良く知っている:今日はジョージアの番。明日はウクライナの番。明後日はバルト三国の番。そして、おそらくは、我々の国ポーランドの番が来るのだ。」)On February 24, this terrible "tomorrow" for Ukraine came, which President Kaczyński spoke about.
(2月24日に、この恐ろしい「明日」がウクライナにやってきたのです。カチンスキ大統領がおっしゃっていた通りに。)
子どもの死者数について:
It is believed that the number seven brings happiness. That is how many neighbors God has given to Ukraine. Does it bring us happiness? The whole world knows the answer today.
(7という数字は幸福をもたらすと信じられています。これは神がウクライナに与えた隣国の数でもあります。これは我々に幸福をもたらすのでしょうか?こんにちでは、世界中がその答えを知っています。)And 78 Ukrainian children who died from rockets and shelling of the Russian Federation know it better than others. A neighbor who brought trouble and war to our land. A neighbor who obviously acts without God.
(そしてロシア連邦のロケットや発砲によって亡くなった78名のウクライナ人の子どもたちは、他人よりそれをよく知っているでしょう。我々の国にトラブルと戦争をもたらした、ある一つの隣国。明らかに神をも知らぬ振る舞いをする隣国。)
2022年3月15日、カナダ議会での演説
2022年3月15日に、カナダ議会で行われたオンライン演説。
ロシアの空爆を受けたウクライナの名所を列挙し、それらをカナダにある同等の名所に置き換えてみてほしいと語り、カナダ人の心情に訴えた。
演説が終わった後には議員らが立ち上がって拍手を送り(スタンディングオベーション)、声を震わせて涙を流す議員もいたという。
- Speech by President of Ukraine Volodymyr Zelenskyy in the Parliament of Canada — Official website of the President of Ukraine
- ゼレンスキー大統領「空域閉鎖を」 カナダ議会で演説: 日本経済新聞
- ウクライナ大統領、さらなる支援訴え 加議会で演説 写真13枚 国際ニュース:AFPBB News
The famous CN Tower in Toronto... How many Russian missiles will be enough to destroy it? Believe me, I do not wish this to all of you...
(著名なCNタワー。これを破壊するには、ロシアのミサイルがいくつ必要でしょうか? どうか信じてください、私は決してそれを願っているわけではありません。)But we predict every day how many more missiles can hit our TV towers. And they hit them.
(しかし我々は毎日、さらにいくつのミサイルが我々のテレビタワーに命中するだろうかと予測しているのです。そして実際に命中するのです。)Our Freedom Square in Kharkiv and your Churchill Square in Edmonton. Imagine Russian missiles hitting its heart.
(ハルキウにある我々の自由広場と、エドモントンにあるあなた方のチャーチル広場。ロシアのミサイルがその中心に命中するところを想像してください。)Our Babyn Yar is the burial place of the Holocaust victims... The Russians did not stop before bombing even this land. And what about the National Holocaust Monument in Ottawa? Will it withstand the impact of three or five missiles? It happened to us. Air bombs. A minute ago there were people alive. There was a family that just came there. They were alive. And now... You understand.
(我々のバビ・ヤールはホロコーストの犠牲者の埋葬地です。ロシアはこの地ですら爆撃を止めません。オタワにある国立ホロコースト記念碑ではどうでしょうか?この記念碑は3つの、あるいは5つのミサイルの命中に耐えることができるでしょうか?これが我々に起きている事なのです。空爆です。1分前には人々は生きていた。家族がちょうどそこに到着したところだった。彼らは生きていた。そして今は……。お判りいただけたでしょうか。)
子どもの死者数について:
Imagine hearing the report on the dead every day. Yes, you are the president or the head of government, but you just hear about it, about the dead children. And the death toll is growing. 97 children were killed as of this morning.
(死者の報告を連日聞くことを想像してみてください。そう、あなたは大統領あるいは政府の長で、しかしあなたはそれを聞くことしかできないのです、死んだ子どもに関する報告を。そしてその死者の数は増え続けているのです。今朝までに97名の子どもが殺されました。)
2022年3月16日、米国連邦議会での演説
2022年3月16日に、アメリカ合衆国の連邦議会で行われたオンライン演説。
ラシュモア山に刻まれた偉大な米国大統領4名(ジョージ・ワシントン、トーマス・ジェファーソン、セオドア・ルーズベルト、エイブラハム・リンカーン)について言及し、民主主義・独立・自由・思いやりといった今日の米国の礎を築いた人々だと賞賛。そのような国をウクライナも望んでいる(しかし、それがロシアの侵攻により脅かされている)のであると語った。
また、1941年12月7日の真珠湾攻撃、2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロ事件(いわゆる「9.11」)、1963年8月28日のキング牧師の演説の一節「I Have a Dream」(私には夢がある)に言及しつつ訴えかけた。
子どもの死者数について:
Now I am almost 45 years old. Today my age stopped when the hearts of more than 100 children stopped beating. I see no sense in life if it cannot stop death. And this is my main mission as the Leader of my people – great Ukrainians.
(私は現在だいたい45歳です。しかし100名を超える子どもの心臓が鼓動を止めたとき、私の年齢は止まってしまいました。私はもしこのような死を止めることができないなら人生に何の意味も見出せません。そしてこれは、私の人々――偉大なウクライナ人たち――の指導者としての私の最大の使命なのです。)
2022年3月17日、ドイツ連邦議会での演説
2022年3月17日に、ドイツ連邦議会で行われたオンライン演説。
ドイツが経済を優先してロシアから天然ガスを輸入するパイプライン計画「ノルドストリーム」を推し進めた事、NATOへの加盟やEUへの加盟の問題を遅らせている事などを指摘し、これらはウクライナの苦難を隠して見ようとしない「壁」であるとして、かつての「ベルリンの壁」に喩えた。そして壁を乗り越えて見てみてほしい、壁を壊してほしいと求めた。
また、かつてドイツが助けられた「ベルリン大空輸」は空が安全であったからできたことだが、ウクライナの空は安全ではなくなっているので空輸すらできず、空はロシアのミサイルや空爆だけが与えられるものになっている……との苦境を訴えた。
他の国と同様に、ドイツからの支援に大いに感謝する旨も告げてはいた。しかし全体としては、これまでの同国の方針を批判して転向を求めるようなニュアンスが強い演説だったとの見方も少なくない。
- Address by President of Ukraine Volodymyr Zelenskyy to the Bundestag — Official website of the President of Ukraine
- ゼレンスキー氏、独を批判 経済一辺倒、「欧州に新たな壁」―議会演説:時事ドットコム
- ウクライナ大統領 ドイツ議会で演説「指導的役割を果たして」 | NHK | ウクライナ情勢
子どもの死者数について:
Thousands of Ukrainians died in three weeks. The occupiers killed 108 children. In the middle of Europe, in our country, in 2022.
(3週間のうちに数千人のウクライナ人が亡くなりました。占領者は108人の子どもを殺しました。ヨーロッパの真ん中で、我々の国で、この2022年にです。)
2022年3月19日、スイスの反戦集会での演説
2022年3月19日に、スイスのベルンで行われた数千人が参加する大規模な反戦集会にて行われたオンライン演説。
同国の自然や生活水準の豊かさを称賛し、ウクライナもそうなろうと努力していたのだが、2月24日にすべてが変わってしまったと嘆いた。また、同国の銀行に戦争を始めた人々(ロシアの政治家たち)の資産が預けられており、それを凍結してほしいと訴えた。さらに同国の某有名食品企業について、同社が掲げるスローガンは「グッドフード、グッドライフ」であるのに、ロシアでの事業を停止していないとして苦情を述べた。
この集会には同国のイニャツィオ・カシス大統領も出席しており、演説後に「これだけ多くの人々が、あなたの国民が孤独でないことを示しにきた」とゼレンスキーに語りかけた。
- Speech by President of Ukraine Volodymyr Zelenskyy in the Knesset — Official website of the President of Ukraine
- ゼレンスキー大統領、スイスのデモでオンライン演説 - SWI swissinfo.ch
- スイス国内銀のロシア資産凍結を、ウクライナ大統領が訴え | ロイター
2022年3月20日、イスラエル議会での演説
2022年3月20日に、イスラエルの国会に当たる「クネセト」で行われたオンライン演説。
ウクライナ第5代首相「ゴルダ・メイア」がウクライナ出身である事に触れ、彼女の言葉を引用した。
That is why I want to remind you of the words of a great woman from Kyiv, whom you know very well. The words of Golda Meir. They are very famous, everyone has heard of them. Apparently, every Jew. Many, many Ukrainians as well. And certainly no less Russians. "We intend to remain alive. Our neighbors want to see us dead. This is not a question that leaves much room for compromise."
(だからこそ、私はあなた方もよく知っている、キーウ出身の偉大な女性の言葉をあなた方に思い出していただきたいのです。ゴルダ・メイアの言葉を。この言葉は非常に有名ですから、誰もが聞いたことがあるでしょう。おそらくは全てのユダヤ人。同様にたくさんの、たくさんのウクライナ人。そしておそらくは少なくないロシア人も。「我々は生き続けるつもりです。我々の隣人たちは我々の死を願っています。これは妥協できる問題ではないのです。」)
また、ロシアの侵攻が始まった「2月24日」は国民社会主義ドイツ労働者党(すなわちナチス)が設立された日付でもあることを語り、ウクライナ人が世界中に避難して安全な地を求めていることをかつてのユダヤ人のそれに喩え、ホロコーストの被害者が埋葬された土地バビ・ヤールにもロシアが空爆を行っていることを語り、イスラエル/ユダヤ人からの共感を求めた。
その上で、イスラエルのミサイル防衛システムが最高である(いわゆる「アイアンドーム」を指していると思われる)ことを指摘し、ウクライナがイスラエルからそれを購入させてもらえないという現状を訴えた。
- Speech by President of Ukraine Volodymyr Zelenskyy in the Knesset — Official website of the President of Ukraine
- ゼレンスキー氏「アイアンドーム」の輸出求める イスラエル国会演説 [ウクライナ情勢]:朝日新聞デジタル
- ウクライナ大統領が制裁要求 イスラエル国会で演説 - 産経ニュース
- イスラエルは武器供与を、ウクライナ大統領が国会で演説 | ロイター
2022年3月22日、イタリア議会での演説
2022年3月22日に、イタリアの議会で行われたオンライン演説。
「この戦争を始めた者たちはイタリアを休暇の場所として使っているのです」と語り、「殺人者のリゾートにならないでください」「彼らを締め出してください」と訴えた。
- Address by President of Ukraine Volodymyr Zelenskyy to the Italian Chamber of Deputies — Official website of the President of Ukraine
- ゼレンスキー大統領 イタリア議会で演説 ロシアへ圧力強化訴え | NHK | ウクライナ情勢
- ゼレンスキー大統領、イタリア国会で演説「殺人者のリゾート地にならないように」 | Business Insider Japan
子どもの死者数について:
When I addressed a rally in Florence and dozens of other European cities a little over a week ago, I asked all Italians, all Europeans to remember the number 79. The number of children killed in Ukraine at that time.
(1週間と少し前に私がフィレンツェや他のヨーロッパの都市で行われた反戦集会において演説した際、私は全てのイタリア人、全てのヨーロッパ人に、79という数字をおぼえておいてくださいと頼みました。この数字はその時点で、ウクライナで殺された子どもたちの数でした。)Now it's 117.
(今、その数字は117になっています。)38 children more during these days.
(この日数の間に、38人の子どもがさらに犠牲になったのです。)
2022年3月23日、日本の国会での演説
2022年3月23日に、日本の国会で行われたオンライン演説。
会場は衆議院第一議員会館国際会議室及び多目的ホールで、衆参両院の議員が出席する中で行われた。
ロシアの侵略により原子力発電所が脅かされていることを訴え、さらにロシアの脅威を津波に喩えるなど、明言はしないものの、日本人の記憶に刻まれた2011年3月11日の東日本大震災の記憶に訴えかけた。
また、ロシアがサリンのような化学兵器を使う可能性を憂慮しているとして、こちらも明言はしなかったものの、1995年3月20日に発生した地下鉄サリン事件に準えてウクライナが感じている恐怖を伝えた。
以下は、ウクライナの国営通信社「ウクルインフォルム」の日本語版サイト(https://www.ukrinform.jp/)中、「ゼレンシキー宇大統領の日本の国会での演説全文」のページからの引用である。ウクルインフォルムが、演説のウクライナ語原文から日本語に仮翻訳したものであるそうだ。
親愛なる細田議長、山東議長、岸田首相、日本の国会議員の皆さん!
私、ウクライナ大統領にとって、日本の議会の歴史で初めてあなた方に呼びかけられることは、大変な光栄である。
私たちの首都は、8193キロメートル離れている。平均すれば飛行機で15時間だ。ルートによって異なる。しかし、私たちの自由の感覚の間には、どのような距離があろうか? 私たちの生きることを望む気持ちの間には? 私たちの平和を望む気持ちの間に距離があるだろうか?
2月24日、私は、その距離を全く目にしなかった。私たちの首都の間には、1ミリの距離すらも。私たちの気持ちの間には1秒の距離もなかったのだ。なぜなら、あなた方が私たちのところにすぐに支援に駆けつけてくれたからだ。私は、そのことにつきあなた方に感謝している。
ロシアが、ウクライナ全土の平和を破壊した時、私たちはすぐに、世界が本当はどんな姿なのかを目にした。世界が本当に戦争に反対している様子を。世界が本当に自由を支持していることを。世界が本当にグローバルな安全保障を支持していることを。世界が本当に一つ一つの社会の調和ある発展を支持していることを。日本は、アジアにおいて、そのような立場のリーダーとなった。あなた方は、このロシア連邦が始めた残酷な戦争を止めるために、すぐに活動を開始した。あなた方は、ウクライナにおける、つまり欧州における平和達成のためにすぐに活動を開始した。そして、それは本当に重要なことなのだ。地球上の一人一人にとって重要なことなのだ。なぜなら、ウクライナの平和がなければ、世界中の誰一人として、確信を持って未来を見ることができなくなるのだから。
あなた方一人一人が、チョルノービリ(チェルノブイリ)とは何かを知っているだろう。1986年に大きな爆発の生じたウクライナの原子力発電所だ。放射線が漏洩した。それは、地球上の様々な場所に影響をもたらした。チョルノービル原子力発電所周辺30キロメートル圏は封鎖されている。そこは危険だ。封鎖区域を満たす森には、発電所の爆発被害を除去していた時から、何千トンもの冷やされている使用済み燃料、破片、機材がある。地上に。
2月24日、その地に、放射性降下物を空気中に巻き上げながら、ロシアの装甲車がやってきた。チョルノービリ発電所は制圧された。力で、武力で。想像して欲しい。事故のあった原子力発電所が制圧されたのだ。破壊された原子炉を覆うシェルターが。稼働中の使用済み燃料保管庫が。ロシアは、この場所を戦争の舞台に変えたのだ。30キロメートル圏の封鎖空間を、ロシアは、私たちの防衛軍に対する新たな攻撃の準備のために利用しているのだ。
ロシア軍のウクライナ領への侵入後、彼らがチョルノービリの大地にもたらした被害、どの冷却設備が損傷したのか、放射性降下物が地球にどのように拡散したのかを分析するには何年もかかる。
皆さん!
私たちの国土には、4つの原子力発電所が稼働している! 15個の原子炉だ。それら全てが脅威にさらされている。ロシア軍はすでに、欧州最大のザポリッジャ原子力発電所を戦車で砲撃した。戦闘行為の結果、何百もの産業生産施設が被害を受けており、その多くが特別に危険な場所だ。攻撃は、ガス・石炭パイプラインや炭鉱にも脅威をもたらしている。
先日、ロシア軍は、ウクライナのスーミ州の化学製造所も攻撃した。そこでアンモニアが流出した。私たちは、化学兵器の攻撃の可能性があるとの警告を受けている。特に、シリアで使われたことのあるサリンによるものだ。
世界の政治家たちの議論の主要なテーマの一つは、もしロシアが核兵器を使った場合、どう対応するかという話になった。世界における全ての人、全ての国のあらゆる確信が、完全に破壊された。
私たちの軍人は、すでに28日間、ウクライナを英雄的に守っている。28日間、世界で最大の規模を持つ国から、全面的な侵攻を受けている。しかし、その国は能力面では最大ではない。さらに、影響力も最大ではない。そして、倫理面では最小である。
ロシアは、ウクライナの平和な町に対して、ミサイルを1000発以上放ち、数えられない数の空爆を行った。ロシア軍は、何十もの私たちの町を破壊した。いくつかは完全に燃やし尽くしてしまった。ロシアの占領の被害を受けている多くの町や村では、人々は殺された親族、友人、隣人を尊厳を持って埋葬することもできていない。破壊された建物の中庭や、道路の横や、単にそれが可能だという場所に、埋葬せざるを得なくなっているのだ…。
何千の人が殺された。その内、121名が子供だ。
約900万人のウクライナ国民が、ロシア軍から身を守るために、仕方なく家を、自分のふるさとを去っている。私たちの「北方領土」「東方領土」「南方領土」が空っぽとなっている。人々がその死の脅威から逃げているからだ。
ロシアは、私たちの海へのアクセスすら封鎖した。普通の貿易手段をだ。そうすることで、他の潜在的な世界の侵略者に対して、航海を封鎖することで、自由な民に圧力をかけられることを示したのだ。
皆さん!
ウクライナとパートナー国と私たちの反戦連合は現在、世界の安全が最終的に破壊されてしまわないようにするための、保証を与えることができる。世界に人々の自由のための支えが存在し続けるための保証だ。人々と社会における多様性を保存するための支えだ。国境を守るための。私たちや、私たちの子供、私たちの孫のために、今後も平和が存在し続けるという確信のための。
あなた方は、国際機構が機能していないことを目にしているだろう。国連や安保理すらもだ。彼らは何ができるのだろうか? 彼らは、改革が必要である。正直さの注入が必要だ。効果的になるために。議論するだけでなく、本当に問題を解決し、本当に影響力を行使できるようになるために。
ロシアの対ウクライナ戦争によって、世界は不安定化した。世界は、多くの新しい危機の入り口に立っている。明日がどうなるか、誰が今確実に理解しているだろうか?
世界市場の大荒れは、食料輸入に依存する全ての国に問題をもたらしている。環境面と食料面の挑戦は、過去に例のない水準だ。重要なことは、現在、戦争を起こすことで強力な罰が生じ、戦争は始めるべきではない、平和を破壊すべきでないということを、地球上の全ての侵略者、明らかな侵略者にも潜在的侵略者にも、確信させられるかどうかにある。責任ある国家が平和保護のために団結することは、完全に論理的で正しいことである。
私は、あなた方の国がこのような歴史的瞬間に原則的な立場を取ったこと、そしてウクライナへの真の支援を与えてくれていることに感謝している。あなた方は、平和を回復するために、アジアで最初に、ロシアへの真に強力な圧力をかけ始め、対露制裁を支持した。私は、あなた方に、制裁を続けるよう呼びかける。
そして、状況を安定させ、ロシアに平和を探させ、私たちの国、ウクライナへの残酷な侵攻の津波を止めさせるべく、あなたのパートナーであるアジアの国々の努力をまとめるよう呼びかける。ロシアへの禁輸が必要だ。ロシア軍にお金が行かないように、ロシア市場から企業を去らせねばならない。私たちの国、ロシア軍を止める私たちの防衛者、私たちの戦士への更なる支援が必要だ。そして、ウクライナの復興についても、もう今考え始めなければいけない。ロシアによって破壊された町々や、ロシアによって荒らされた領土に生活を取り戻すために。
人々は、これまで暮らしていた場所に戻らなければならない。彼らが育った場所に。彼らが、そこが自分の家だと感じる場所に。自分の小さなふるさとに。私は、あなた方はこの感覚を理解していると確信している。自分のふるさとへ戻らなければ、という気持ちを。
私たちは、新たな安全保障を作らねばならない。平和にとっての脅威が生じる度に、予防的に毎回強固に機能するように。
現存の国際機構を基盤にそれが可能だろうか? このような戦争の後では、絶対無理だ。新しい機構を創設しなければならない。新しい保証を。あらゆる侵略に対して予防的かつ強力に機能する保証だ。日本のリーダーシップは、その創設において不可欠となるかもしれない。ウクライナにとって、世界にとっての。私は、あなたにそれを提案する。
世界がもう一度、明日がどういう日となるかについて確信を抱けるように。明日が訪れることへの確信、明日が安定し、平和なものとなることへの確信だ。私たちにとって、将来の世代にとっての明日への確信である。
皆さん!
日本の人々よ!
私たちは、あなた方と一緒なら、多くのことを行うことができる。想像するよりもずっと多くのことをだ。
私は、あなた方にどれだけ急速な成長の歴史があったかを知っている。あなた方が調和を築き、それを守ることにどれだけ長けているかを知っている。あなた方が、どれだけ原則を守り、生活を大切にしているか、環境を守っているかについても。それらの根っこは、あなた方の文化にある。ウクライナ人が心から愛しているあなた方の文化だ。私は、単に上辺だけでこのように話しているのではない。本当にそうなのだ。
2019年、ちょうど1年半前、私がウクライナ大統領になると、私の妻オレーナは視力の不自由な子供のためのプロジェクトに参加した。そのプロジェクトは、オーディオブックを作るプロジェクトだ。彼女は、日本の昔話を読んだ。ウクライナ語でだ。なぜなら、その昔話は、私たちにも子供たちにもわかりやすかったからだ(編集注:「桃太郎」と「二ひきのかえる」)。そのことは私たちのウクライナの人々のあなた方の築き上げた物への大きな関心の海における、たった一滴に過ぎない。
価値の面で、私たちとあなたたちは似ている。私たちの国の間にどんなに大きな距離があろうとも。いや、その距離は実は存在していない。なぜなら、私たちの間には、心の中に同じようにぬくもりがあるからだ。共通の努力のおかげ、ロシアに対するさらに強い圧力のおかげで、私たちは平和へ辿り着ける。そして、私たちの国を再建することができる。国際機関を改革することができる。
私は、その時も、今と同じように、日本が私たちと一緒にいてくれていることを確信している。この決定的な時の、私たち全員のための、反戦連合の中にて。
ジャークユ! ありがとうございます!
- Speech by President of Ukraine Volodymyr Zelenskyy in the Parliament of Japan — Official website of the President of Ukraine (ウクライナ大統領府公式サイトより、この演説の英訳ページ)
上記で全文引用したものはウクルインフォルムによるウクライナ語からの翻訳文だが、実際の演説映像では在日ウクライナ大使館関係の人物による同時通訳が行われた(なお、かなり同時通訳が難しい文章であったらしい)。その通訳文の書き起こしは以下のサイトなどに掲載されている。上記の翻訳文との違いについて比べてみるのもよいだろう。
- 「ウクライナへの侵略の津波を止めたい」 ゼレンスキー大統領が12分の演説で訴えたこと【全文】(1/3)〈AERA〉 | AERA dot. (アエラドット)
- 平和な明日が来るため一緒に努力を ゼレンスキー氏国会演説詳報 | 毎日新聞
- 【全文書き起こし】ウクライナ・ゼレンスキー大統領が国会で演説 「このウクライナに対する侵略の"津波"を止めるために」 - ログミーBiz
子どもの死者数について:
Thousands were killed, including 121 children.
(数千人が殺され、その中には121人の子どもも含まれているのです。)
関連リンク
- ゼレンシキー宇大統領、日本国民向けに演説 「平和の公式」実現の意義を強調 2023.5.21 ※G7サミット開催中の日本をゼレンスキー大統領が直接訪問した。
関連項目
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